皆さんは『シースクリーム』というケーキをご存知でしょうか?柔らかく甘いスポンジ、生クリームとカスタードクリームで構成され、そしてアクセントの黄桃とパイナップルが乗った長崎市民であれば知らない人はいない、といっても過言ではない名物スイーツです。
長崎在住ライターが語る 「シースクリーム」ってどんなケーキ?
シースクリームの生みの親は長崎市に本店を構える梅月堂さん。明治27(1894)年創業の老舗菓子舗です。
初代社長の頃は和菓子のお店だったそうですが、二代目社長の時に洋菓子の要素を取り入れ始め、三代目社長に代わった昭和30年(1955年)には本格的に洋菓子店へと舵を切り、そこで生まれたのが他でもないシースクリームでした。
北海道出身の私、東は、高校卒業後に米国の大学へ四年間留学し、帰国後は就職で長崎に来ました(長崎歴はほぼ20年です)。人生初の九州上陸、始まった新生活。その中で、私は沢山の新しい方言や未知なる食べ物との出会いを果たします。その中の一つが「シースクリーム」です。
個人的にシースクリームのお勧めポイントは、あの黄桃とパイナップル!
この二つがシースクリームを食べる時に、すごく良い仕事をしてくれるのです。シロップ漬けの利点で黄桃はいつ食べても瑞々しく、パイナップルは酸味のバラつきがなく常に程よい甘酸っぱさで、甘い生クリームとスポンジと交互に食べることでそれぞれが引き立て合い、ついフォークが進みます。
そして、見た目を裏切らない生クリーム+カスタードクリームそのままの味で、安心して食べられるのもポイントです。
ケーキによっては、見えない部分に隠し味が入っていることがありますよね。たとえばベリー系のジャムなどがそっとスポンジに塗られていたり、生クリームと見せかけて実は少しチーズが入っていたりなど……。
それはそれで美味しいのですが、私はどちらかといえば変化球のケーキよりも、期待したものがそのままの味で楽しめる方が好きな性質なので、これもシースクリームに好感を持っている部分です。
「She scream」? 叫ぶケーキ?? シースクリームの名前の由来
「シースクリームは、それまで主流だったバタークリームやカスタードクリームではなく、当時まだ珍しい生クリームを使ったケーキとして開発されました」と、創業当時のケーキについて語ってくれたのは代表取締役社長の本田時夫さん。
現在も形を少しずつ変えながらも材料は至ってシンプル。柔らかなスポンジにカスタードクリームをサンドして生クリームでコーティングし、飾りにさらに生クリームをしぼって黄桃とパイナップルを載せたものとなっています。
この素朴ながらも王道ともいえる組合せが長崎の地元民に大変愛され、「ケーキといえばシースクリーム」とまで言われるほどになりました。
その単語が最初に私の耳に飛び込んできたのは、就職して一年目の就業時間中のこと。ちょうど休憩というか雑談になった時、一回り年上の先輩が「小さい頃からケーキといえばシースクリームやったなー」と笑顔で言ったのです。
それを聞いた私は頭の中が疑問符で埋め尽くされ、そして訊きました。
「えっ……叫ぶんですか」
私の頭に浮かんでいた綴りは「She scream」。三人称単数の「s」がついていないことは置いておくとして、とりあえず「彼女が叫ぶ」と名付けられたなんだか物凄いインパクトのある名前のケーキ、という鮮烈な印象を抱きました。
叫ぶほど美味しいケーキなんだろうか。もしくは実際に誰かが叫んだからその名前になったとか。いずれにせよ是非とも食べてみたいな、などと瞬時に想像を巡らせた私に対し、その先輩は笑いながら「区切る場所が違うよ、シース・クリームね」と教えてくれまして、それが私とシースクリームの衝撃の出会いでした。
「シース」が造語の訳とは
そのシースクリーム、正解の綴りは「Ceece Cream」です。※ちなみに言い訳をしますと、当時はちょうど四年間の留学から戻ってきたばかりで、カタカナを耳にすると自然と英語に紐づけてしまう癖が抜けきっていなかったが為の勘違いでした。
そして実はCeeceは造語です。なぜ造語なのでしょうか。それにはシースクリームの最初の名付けに秘密があります。
シースクリームはその形などが時と共に改良を重ねられ、現在は四角いショートケーキ型ですが、初代シースは楕円形で、それがさやに入った豆のように見えたので、さやを意味するシース+クリームで名付けられました。
ところが。このさやという単語が曲者で、本来は豆類の莢(pod:ポッド)とすべきところを、刀の鞘(sheath:シース)と間違えてしまったとか。
この間違いに梅月堂さんが気付いたのが発売から何十年も経ってからだったとのことで、既に梅月堂さんの代名詞と言っても過言ではないほど浸透してしまったシースクリームという名前そのものを変えてしまうのは現実的ではありませんでした。
とはいえ、間違えたままだとそれはそれで塩梅が良くありません。結果、誤解のないよう、かつ判りやすいようにということで「sheath」から「ceece」という造語に変わったのです。
シースクリームは「ぜひ地元長崎で」
シースクリームは、今や年間十八万個が出荷されています。まさに梅月堂さんの看板商品であり、長崎を代表するケーキとなりました。
冷凍での全国発送もされていますが、15年ほど前に全国放送のテレビ番組で取り上げられたことを端緒に県外からも注目される機会も増え、本格的に冷凍通販事業にも取り組みはじめました。
当時、店舗と変わらない品質を保って発送することは容易ではありませんでした。
しかし、困難の中にありながらも諦めることなく、「地元の味は守りつつも、全国へ届けられるよう研究と改良を重ねました」と本田社長は言います。
本田社長は「全国流通はできるようになりましたが、そこはやはり地元の名物。長崎観光など、長崎の地に来て長崎の文化に触れながら、ここサロン・ド・フィーヌ(※梅月堂さんの本店併設のカフェ)で、できたてのシースクリームを食べて頂けたら嬉しい」と呼びかけます。ぜひ長崎観光の折に、地元のスイーツを味わってみてはいかがでしょうか。
撮影、文/東吉乃、提供写真/梅月堂


















































































