神田にある「神田まつや」の取材グルメ記事と写真のページ。蕎麦前について尋ねるなら、やはりここ『神田まつや』を置いてほかにないだろう。明治17年創業の老舗にして、庶民的ながらも粋な風情は今も変わることがない。かの池波正太郎がひいきにして通ったことでも有名だ。
神田まつや(最寄駅:神田駅、淡路町駅)
ちなみに池波は〝蕎麦前なくして蕎麦屋なし〟なる名言も残している。
まずはそもそもその由来について。六代目店主・小髙孝之さんに聞いてみた。話は江戸時代にさかのぼる。
「そもそも江戸には蕎麦屋が多かった。今の東京と比べると、広さも人口も1/10くらいですが、そこに3700軒ほどもあったと言います。当時は食事は朝夕の2食。蕎麦はその中間食としてよく食べられたんですね。で、そこに目をつけたのが、居酒屋の元祖、豊島屋の十右衛門だと言われています」
ちなみに江戸時代発祥で、同じく栄えていたのが居酒屋だ。「昔はそれほど火力もないので、蕎麦が茹だるにも少し時間がかかる。そこで、それを待つ間にお酒を1~2合飲んで、出来上がった蕎麦をささっと手繰って帰る。そんなスタイルが定着したのがいわゆる蕎麦前ですね」
読んで字のごとく、蕎麦を食す前に、それを待ちつつ蕎麦屋で一杯。よい! で、次に気になるのはそのアテだ。
天ぬき(天吸い)
2000円
燗酒と蕎麦味噌
700円
そばがき
1050円
わさびかまぼこ
650円
焼きのり
450円
蕎麦屋の焼き鳥
800円
「江戸時代にはいわゆる〝種もの〟もほとんど確立していました。天ぷら蕎麦、花巻、おかめ、玉子とじとかですね。そこで自然と、種ものの具が蕎麦前のつまみとなったわけです」
花巻の焼き海苔、天ぷら蕎麦の芝エビのかき揚げ、おかめ蕎麦のかまぼこ等々だ。ちなみに天ぬきとは、天ぷら蕎麦から蕎麦を抜くから天ぬき。そのままでは汁の味が濃すぎるということで、お吸い物くらいの濃さに調整して天吸いと言う場合もあるが、まつやの場合は後者である。板わさのわさびは、昔は貴重品で高価なもの。赤軸の本わさびとなれば、これをつまみにちびりちびり酒を飲むのもまたたまらない。
という具合だが、同時にまた、愉しみ方にも当時からのスタイルがある。
「長っ尻はしない、というのが江戸っ子の掟ですね。一般庶民にとっては金銭的な理由もあったんでしょうが、それでも飲みたいと(笑)。それと昼酒。当時の仕事は午前中がほとんど。朝からバババッと終わらせて、一杯と。そういう習慣がそのまま残って、蕎麦屋では今でも昼から堂々と飲める、というのもいいんじゃないですかね」
ほほう。昼酒は仕事のできる男の証なり! 聞きたかったのはこれである(違うか)。さらにいうと、居酒屋と違うのは、居酒屋は多数で訪れても、蕎麦屋は昔からひとりやふたりで気軽にふらっと寄る客が多いということ。
「女性の方も含めて、うちは一人のお客さんも多いですよ。読書をしながら自分の時間を楽しんでいる方もいる。かと思えば、相席でいつの間にか意気投合している方もいらっしゃる。ある一定のマナーを守れば、あとは何に縛られることなく、それぞれの時間を楽しめるというのがいいんでしょう」ふむふむなるほど、『神田まつや』は今日もいい風情である。
神田まつや
電話番号 03-3251-1556
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