おしどり夫婦が営むきしめんの名店で「きしころ」を堪能
夏を代表する名古屋めしといえば、キリッと冷えたきしころ。
きしころとは、ただ単に冷たいきしめんのことではない。
冷やしたかけ汁で出す店もあれば、ざるつゆで提供する店もある。
なかには常温で出すところもあり、まさに千差万別。
だから、きしころの意味は「温かくないきしめん」が正しい。
さて、今回紹介するのは、愛知県春日井市にある『えびすや 勝川店』。
地元の人々に愛され、今年7月で創業40年目を迎えた。
これまで私は、数多くの店できしころを食べ歩いてきたが、ここはかなりレベルが高い。
自信を持って勧められる店なのだ。
店名からもわかるように、店主の伊藤辰男さんは、名古屋市中区錦3丁目にある本店で修業を積んだ。
27歳のときに独立し、修業期間も含めると半世紀以上にもわたって打ち続けている生粋の麺職人なのだ。
ゆえに麺の旨さはハンパない。
こちらは『えびすや』の定番、「えびおろしきしめん(冷)」(1350円)。
約40年前に大治店で生まれ、今や県内にある大半のうどん店で食べられる一品だ。
野菜天などがのる店もあるが、『えびすや』では大きな海老天とたっぷりの大根おろしがのる。
ここ、勝川店はなんと、車海老を使っているのだ。
「ここ何年かで値段が高騰していますが、昔から使っているので変えられないんです」と、伊藤さん。
また、ここのきしめんは、幅が広くてもっちりとした食感が特徴。
幅広きしめんは3、4年ほど前から地元で静かなブームとなっているが、ここは創業以来ずっと幅広麺を採用している。
その理由は、豚ロース肉と紅ショウガの天ぷらをのせた、この夏の新メニュー「トン天きしころ」(880円)を食べてみて納得した。
つゆとのバランスだ。
だしはコクのあるムロアジのみ。
たまり醤油などを合わせて仕上げてあり、ガツン!と旨みが伝わる。
このつゆと幅広麺がよく合うのだ。
仮に通常の幅と厚みの麺だったら、つゆに負けてしまうのだ。
さらに「トン天きしころ」は、豚肉の旨みもつゆに染み出して、食べるごとにどんどん美味しくなる。
紅ショウガの天ぷらも箸休めにぴったり。
これは大ヒットする予感!
夏場は熱々の「カレー煮込みうどん」(930円)も人気。
隠し味に味噌煮込みに使用する味噌をくわえてあり、コクをプラスしている。
さらに、豚肉ではなく、牛肉、それも和牛が入っていて、つゆ全体に旨みが染みわたっている。
辛さは控えめで、女性や子どもでも楽しめる。
この店の魅力はメニューだけではない。
伊藤さんの奥様で、接客担当の直子さんの存在である。
フレンドリーな接客が何とも心地良く、また足を運びたくなるのだ。
伊藤さん夫妻はとても仲が良く、2人のやりとりを見ているだけで心が和む。
店の前にはこんな看板が。
きしめんは8分以上、うどんは15分以上と、手打ちの生麺を茹でて提供するまでに時間がかかるのは当たり前だ。
スピードを求めるのなら、セルフうどんにでも行けばよい。
昭和の風情が残る、ゆっくりと時間が流れる店内で味わうきしめんはサイコーなのだ。
えびすや 勝川店
[住所]愛知県春日井市旭町2-19 プラザフェニックス勝川107号
[TEL]0568-32-3982
[営業時間]11時15分~14時(L.O.)、17時~20時20分(L.O.)
[定休日]水、第3火曜
永谷正樹(ながや・まさき)
1969年生まれのアラフィフライター兼カメラマン。名古屋めしをこよなく愛し、『おとなの週末』をはじめとする全国誌に発信。名古屋めしの専門家としてテレビ出演や講演会もこなす。
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