舌の肥えた“ホンマもんの食通”が密かに通う日本料理の隠れた名店「瑞」を天満の外れで見つけた!
暖簾をくぐり、テーブル席を抜けてカウンターへとたどり着く――。
初めて料理屋を訪れたとき、初対面の大将が出迎える、この瞬間が心を躍らせる最高の時間でもある。
ええ店なのか、どうか。
人間の嗅覚ってヤツが五感を働かせる。
この間で、ある程度、雰囲気がつかめて一品を口にするまでその至福は代えがたい。
少しの会話と食材を奏でる音を聞きながら時間を過ごすのも、また料理屋の醍醐味だ。
JR天満駅から徒歩で約10分。
住宅街にある和食「瑞」は、料理通なら心躍らせる食のテーマパークだ。
和食が素材にこだわるのは当然といえば当然。
ええもんを、いかにひと手間加えて提供するのか?
これが料理人の見せ所。
大将の桑野敏至さん(38歳)は、異業種から紆余曲折を経て和食の料理人へと転機に立った。
「販売をしていると、お客さんのニーズと異なるモノを時には売らなければならない。
製造と販売が合致していれば、本当に価値のあるモノを売れると思ったんです。
そこでたどり着いたのが料理の世界でした」
はじめは、鉄板焼きの世界に飛び込んだ。
2年の修業を経て、素材を最大限に生かす料理に興味を抱くようになると、次の修業先は京料理のミシュラン店。
祇園で約5年の経験を積んで独立したのは昨年11月のこと。
実は奥さんも同店の系列店で働いていた料理人で、二人三脚、夫婦で切り盛りする。
「遅くから料理の世界に入ったので、毎日、本ばかりを読み漁ってました。
最初のころは、YouTubeを見て勉強してましたよ(笑)」
もともとが販売人。
このあたりも、気難しい料理人はひと味もふた味も異なる。
事前に電話で「お造りは3品2切れ。あとはこの料理とこの料理を組み合わせて出してほしい」と言えば、オリジナルのコースも用意してくれる。
柔軟性があるから会話も尽きない。
まずは「マスターズドリーム」(600円)というプレミアモルツのこだわりビールからスタート。
梅とゆり根のお付き出しで、「茶碗蒸し」から始まった。
春を感じさせる味わい。
ゆり根は京料理の代表格。
梅の酸味とゆり根の甘味が重なりあう。
次に出てきたのは「お造り3種盛り」。
長崎産の本マグロ、島根産のサワラの炙りと北海道産のホタテ。
アラカルトだと通常は5種。
オリジナルでは3種と臨機応変に対応してくれた。
そして「もずく」から「天ぷら盛り」へと続く。
箸休めのもずくから「天ぷら盛り」はホタルイカ、ふきのとうとタラの芽。
こちらも春づくめ。
塩と天つゆ。
どちらもお好みで……。
ホタルイカの天ぷらを初めて食したが、この風味とうま味、後味が実に心地良い。
続けて、京料理の定番「銀鱈の西京焼き」が出てきた。
こちらは通常2貫。
それを1貫にしてもらって味は言うに及ばず。
あえて説明するまでもなく、魚の甘味が最大限まで引き出されている。
最後の「釜めし」も優しい味わい。
三重県産のコシヒカリに利尻昆布と鰹節でとった出汁で、とことん素材を生かす。
赤出汁つきで、あまった釜飯はおにぎりにしてくれた。
そして、「ゆずシャーベット」で〆る。
このオリジナルコースで約4000円(料理のみ)。
驚きの価格で、なんとも格安にまとめてくれたものだ。
隠れ家として利用できるのも、今だけかもしれない。
この日も1時間後には満員御礼。
噂は確実に流れて、人が押し寄せて来ていた……。
和食 瑞
[住所]大阪市北区同心2丁目4-13 ヴェール同心101
[TEL]06-4800-1551
[営業時間]17:00~23:00
[定休日]水曜
加藤 慶(かとうけい)
大阪在住のライター兼カメラマン。週刊誌のスクープを狙う合間に関西圏の旨いモンを足で稼いで探す雑食系。
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