収入に満足していた“毛ガニ”
まだ売れる前から、この男は大物になると思えた。音楽面だけでなく、人間的に。
実際、1990年代、パーカッション担当の毛ガニこと野沢秀行と仕事をした時、給料について尋ねると、一メンバーとしては充分な金額だと彼は満足していた。大ブレイクしても、桑田佳祐だけが経済的に満足するだけでなく、メンバーも潤していたのだ。
会社に就職して、労働を積み上げてゆく。それに比例して、給料も上がってゆく、その労働に安住を覚える。今では考えにくいが、これは1970年代、昭和の時代のコモンセンス、庶民感情だった。
サザンオールスターズが国民的人気となれたのは、原初から時勢に根付いた庶民感情を持っていたから。今では、そう思える。
人は何気ない問いの答えの中に真実を埋め込んでいる時がある。“大学出の初任給”の中には、実は深い意味があったのだ。サザンオールスターズが後に多くのファンに寄り添い、人気となる萌芽がこの答えにある。
サザンが作る“オリンピック音頭”が聴きたかった
あれから43年。オリンピックの夏。今ひとつ世論は盛り上がらない。サザンオールスターズが、オリンピック音頭を作っていたなら、もう少し、違った今日があった気がする。桑田佳祐の仕切るオリンピック、観たかった。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo」で、貴重なアナログ・レコードをLINNの約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。