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好きな店が自分の町にある幸せ

この人は本当に、仕事が、店が好きなんだなあと思う。話を聞いていると、よく分かる。そして西荻窪という町の魅力も、今まで店を続けられている理由なのだと教えてくれた。新宿や渋谷といった都心とは違う、地元ならではのホッとする“町”の安心感があるのだという。

「常連のお客さんが会社帰りにうちに来て、ここなら大事な鞄を置いたままでもトイレに行ける、って言う。都心の居酒屋では絶対できないよね。西荻なら平気なんだって」

『八龍』は常連客にとって職場や家ともまた違う“居場所”だ。店は単に飲食を提供するだけの存在ではない。好きな店が自分の町にある意義は大きい。

年に200日以上通ってくる客も 常連の存在の大きさ

「旨い料理を出せば流行るだろうけど、店は味だけじゃないんだよね。嫌なお客さんや、気の合わない人がいないってことも大事。うちはお客さんが皆いい。年200日以上通ってくれる常連さんもいるよ。1回1000円使ってくれたとしても、店は25年以上やってるから使ってくれたお金はもう500万を超える。ありがたいよね。コロナ禍でも売り上げがあまり落ちなかったのは、常連さんの存在と、出前をやっていたおかげ。やっぱり餃子が一番よく出るね」

そう言って作ってくれた餃子(450円)は、ひと皿に大ぶりが5個。きつね色が見るからに美味しそうだ。特注の皮の中には、挽き肉、キャベツ、ニラの餡がズシリと入っている。かぶりつけば、じゅわっとあふれるジューシーな旨み。結構なボリュームの台湾丼を食べたばかりなのに、2個、3個、もう1個……。ビールが進む。はああ、やっぱり熱々の餃子と冷えたビールは旨いよなあ。

もうひとつの名物「餃子」(450円)。キリッと冷えたビールとの相性の良さは言わずもがな

「75歳までは続けようと思ってるよ」

「野菜はあえて水分を絞ってないから、旨みが残ってるでしょ?」

赤いポロシャツ姿で自慢気に笑う表情はとても若々しいけれど、今年68歳。常連客からは「無理はしないで。夜遅くまで営業しなくていいから、長く続けてね」と頼まれているそうだ。重い中華鍋を軽いチタン製に変えて負担を減らしたのも、毎日5分のストレッチを欠かさず健康に気を付けているのも、店をリニューアルしようと決めたのも、そんな声に応えるためなのかもしれない。

「75歳までは続けようと思ってるよ」

21年11月、“分身”の店は、壁紙の張替えなど内装が一新された。ご本人も改装中の休みで少しはリフレッシュされたかな。「もう68歳」じゃなくて、「まだ68歳」。本当は75歳までなんて言わずにもっともっと続けてほしいけれど、言うだけは簡単。その言葉は、心の中にしまっておいた。

文/撮影・肥田木奈々(ひだき・なな)

改装前の店内

『中華料理 八龍』の店舗情報

[住所] 東京都杉並区西荻南2-22-3
[電話] 03-5370-1720
[営業時間]12時〜15時、17時半~22時 ※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業時間は異なる場合があります。
[休日]木、水は不定休
[交通]JR中央線ほか西荻窪駅南口から徒歩3分

台湾丼

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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肥田木奈々
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