『A LONG VACATION』が大ヒット ファンやレコード会社は新作を望んだが…
1981年、『A LONG VACATION』が大ヒットして大滝詠一はスーパースターの仲間入りをした。その3年後、1984年の『EACH TIME』は自身初のオリコンチャートNo.1となった。しかし、『EACH TIME』以降、生涯、オリジナル・アルバムがリリースされることは無かった。だいたい、1972年のソロ・デビュー作『大瀧詠一』に始まったオリジナル・アルバムは、合計6作しかリリースされていない。
普通、ヒット・アルバムが出たら少なくとも数年に1枚、多くの場合は年に1作くらいのアルバム・リリースが続く。しかし大滝詠一は、度重なるファンやレコード会社の新作レコーディングの願いを叶えることはしなかった。
『EACH TIME』が発表されて随分と時が過ぎた頃、あるラジオ・スタジオで大滝詠一とばったり会った。しばし雑談をした後に、何故、ニュー・アルバムを作らないのか、新作が出ればヒット確実なのにと問うた。
“岩田クンはさあ、俺がいわゆる大ヒットを出す前から知っているよね。だったら分かると思うんだけど、金が欲しくて音楽を作ってるわけじゃないんだよな。そりゃ、生きてゆくのに金は必要だし、俺の趣味を充実させるのにお金は必要だ。でも必要以上に欲しいとは思わない。だから生きてゆくのに、趣味をやるのに、お金が原因で困ったらアルバムを作るかも知れない。でもそうならないと思うし、そうなるまではミュージシャン=レコード・リリースで無い形で音楽を紹介してゆきたいね”
大滝詠一にとって、人生の多くは趣味のためであり、その主たる趣味は音楽だった。趣味だからこそ、それは聖なるものであって安易な金儲けの手段にしたくなかったのだろう。そういう人だから、ぼくは師匠と呼びたいのだ。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。
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