冗談文章の天才
「高二時代」という昭和に盛んだった学年誌の1979年9月号に大滝詠一はこんな文章を書いている。
―――“夏”といえば皆さんは何を連想されるでしょう?
☆海や山――レジャー志向型平凡タイプ。
☆七夕――イチゴ型土着的明星タイプ。
☆省エネ・ルック――時事型砲弾タイプ
☆雪合戦――へそ曲がりアンカレッジー経由型安産タイプ
と、いろいろある中に夏を彩る、今や(非難されない)国民的行事となった〈高校野球〉を思い起こす人も多いでしょう―――。
これが高校2年生向けに大滝詠一が書いた「甲子園で野球をやるにはスーパースターになれ」というタイトルの文章の書き出しの一部だ。こういう冗談文章の天才だった。ちなみに省エネ・ルックは当時の時事的話題だった。アンカレッジ経由型とはヨーロッパ直行便が無かった時代、アラスカのかの地を経由していたことを指す。1970年代中期頃から、有名私立女子高は修学旅行をヨーロッパというのが増え始めた。アンカレッジに寄り、ヨーロッパへ向かう将来の良妻のことを大滝詠一は言いたかったのだろう。
ちなみにこの文章の締め括りはこうなっている。
「サア!甲子園目指してギターを弾こう!練習曲は『越後獅子の唄』……ナンダケドナア!(お父さんに聞いてみてちょうだい)」というものだった。
その野球好きは“ミュージシャンは野球チームを結成しているのが、これジョーシキ”とまで言い放っていた。実際に彼の終の住処となった福生の名を冠した「福生エキサイターズ」というチームも持っていた。これに関して“野球だけで大ヒットを飛ばす大瀧選手なのだ”と『A LONG VACAITION』が大ヒットする前は自虐的なジョークも飛ばしていたものだ。
音楽以外でも食べていけそうな「博学の人」
音楽はもちろん、文学、映画などあらゆる方面に趣味の触手を伸ばしていた。それは単なる興味を越えて、徹底的に収集・分析が成されていて、音楽で食べられなくても異なる分野の評論で生きていけそうなくらい、博学の人だった。
野球にもその博学と記憶の良さが発揮されていた。ひいきの選手が、何割何分何厘の打率で打点と本塁打が何本などはスラスラ出てくるほど暗記していた。
“数字はあいまいな感想ではなく、絶対的なデータなので信じられる。これは野球だけでなく、割とすべてのことに当てはまる。データ無しで感情的な発言をするよりも、データの裏付けがあった方を俺は信じるね”と何度か言っていたのが思い出される。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。
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