あの横綱が由来! もうひとつの人気丼
『中西食堂』の朝は、大量のサザエを茹でることから始まる。大鍋で茹でられたサザエは、雪子さんの娘である2代目店主の大井愛子さんが、1個ずつ手際よく殻から出し、一旦部位ごとに分けて丁寧に殻に戻す。
サザエは、アサリなどの2枚貝ほど砂を噛んでいないが、それでも、海の中にいたのだからゼロではない。だから、丁寧に砂袋を取り除くのだ。
貝が苦手な人の多くが、ジャリッとした食感が嫌で敬遠するというが、『中西食堂』のサザエは安心して食べられる。丁寧な下処理があるからだ。しかも、志賀島のサザエは肉厚で柔らかく、旨みが濃い。
サザエ丼の人気が定着してくると、「サザエ丼は美味しいから、もっと食べたい」「サザエがもっと入っているといいのに」という客の声に応えて、大盛りも作ることに。サザエの量も2.5倍になった。でも、単に「大盛」というだけじゃ面白くない。
大盛りといえばお相撲さんということで、大井さんが大好きだった当時の横綱・曙関の名前をいただくことにした。こうして、サザエ丼と並ぶ名物「曙丼」が誕生した。
ちなみに、相撲ファンの大井さんは当時曙関と親交があり、ちゃんと許可をもらっている“公式”メニューだ。
余談になるが、海産物はあまり得意ではないと言っていた曙関が、サザエ丼は「美味しい」と食べてくれたそうだ。
料理の美味しさ以外にも、いつも笑顔で迎えてくれるスタッフのみなさんもまた魅力的。どれだけ忙しくても、対応がやさしい。加えて、いつも掃除が行き届いていて気持ちいいのだ。
最近サザエ丼のちょっと新たな食べ方が生まれた。客の「ワサビを乗せると美味しいよ」という声で、大井さんはじめ店のみんなで試してみた。それが「美味しかったのよ」と、大井さん。
よかったら即採用ということで、中西食堂のテーブルの上にワサビの小袋が並ぶようになった。これまでは、紅生姜を途中で入れて、アクセントにすることはあったが、今はワサビがオススメになっている。甘めの丼と、ワサビの辛みがなんとも相性がいい。
長く続く味でも、客の声でちょっと変化させてみる。お店の柔軟性の高さからこれからも、変わらぬ味で愛されるサザエ丼は、また新たな一面を見せてくれるだろう。
■中西食堂
[住所]福岡県福岡市東区志賀島583-8
[電話番号]092-603-6546
[営業時間]11時〜15時
[定休日]火・第3月
[交通]西鉄バス志賀島バス停から徒歩約2分
撮影/松隈直樹 取材/牛島千絵美