20年間研究を続けて完成させた「北京水餃子」
これぞ唯一無二。例えば「トマト玉子炒め」(850円)もそう。すごくシンプルな構成なのに、奥深くて家庭では絶対に絶対に出せない味。華麗な手さばきで仕上げていく様は、まるでマジックを見ているようだ。
もちろん帰国して苦労もした。日本での慣れない生活。ただ一生懸命だった。新橋の飲食店に勤務していた時は、あまりに真面目に取り組んでいたことで、社長から“仕事の鬼”と驚かれたそうだ。仕事もハード、寝る時間も少ない。曰く儲けも少ない。けれど、「プロだからね。美味しいと言ってくれる料理を作るのが楽しいし、好きなんだよ。一生懸命真面目に仕事をして、お客さんが食べて幸せになってくれることが私の幸せになる。お互いが幸せになるんだから、いい仕事だよね。飲食店は正直じゃないと長く続けていけない。もちろん味が美味しいことも重要だけど、真面目が一番。利益は後から回ってくるもの」
何だかジーン。利益優先や自己満足に陥りがちな世の中、働くということの本質を突き付けられた気がした。高級じゃなくていい。予約が取れない店じゃなくていい。“美味しい”は人を笑顔にする。幸せにする。人は“美味しい”の前では正直だ。3歳の子供がこの店の水餃子1人前5個をペロリと食べたという話には驚いた。まだ3歳ですよ、まあまあボリュームある餃子なのに、お替わりをねだったというから、その子のお母さんもびっくりしたそうな。
その「北京水餃子」(1人前5個630円)は20年ほど研究して今の味を完成させたという。二度挽きした豚肉、白菜、ネギの餡を練るのはあえて機械を使う。最初は手作業だったが、機械の方がより粘りが出て理想の味に近づいたから。モチモチの皮に包まれた餡は野菜の甘さと肉の旨みが渾然一体となり、ぶりんとした独特の食感。旨いなあ、私もお替わり!(3歳児と同レベルw)
秋から冬の時期になると上海蟹も名物で、紹興酒に漬けた「自家製酔っ払いカニ」(時価)を求めて遠方からもお客さんが駆けつける。テーブルに運ぶと付きっ切りで食べ方を説明してくれるのも、美味しく味わってもらうためだ。
体力の限界になったら引退するだけ(笑)」
土・日や祝日は昼からずっと通し営業。頑張っている源には、家族の存在もあるようだ。
「何で今までこんなに懸命に働いてきたかって、やっぱり子供たちを育てるためなんだよ」
つまり、根底に流れるのは愛なんです、愛! 愛情たっぷりの料理でお客さんを幸せにして、家族のために一生懸命働く。ちなみに長男は一流大学&大学院を卒業し、社会で活躍している。
「跡継ぎ? いやいやこの店は自分が好きで続けている仕事だから、体力の限界になったら引退するだけ(笑)」
そうか。そもそもお客さんのため、家族のために続けてきた店だ。料理の腕ひとつで子供たちを立派に育てあげ、彼らは才能を生かして好きな道を進んでいる。店を継いでほしいなんて微塵も考えていない。
健康の秘訣を聞けば、シークワーサーの栄養素が入ったサプリメントを見せてくれて、「これ飲んでるから、元気だよ」。ニカッと笑ったかと思えば、「今日はエビとソラマメの炒め物を用意してるけど、どう?」。うんうん、食べる、食べたいよ。美味しいに決まってるもん。もう私の心のシャッター開きっぱなし。
店のシャッターも、しばらく下ろす予定はない……ですよね、小林さん! 真面目に、正直に。変わらぬ思いで、大好きな料理を作るため、今日も厨房に立つのです。
文・撮影/肥田木奈々(ひだき・なな)
「中国料理 味味(ミミ))」の店舗情報
[住所]東京都目黒区鷹番3-7-17
[電話]03-5721-0082
[営業時間]17時~翌1時、土・日・祝12時〜21時 ※新型コロナウィルス感染拡大の影響で、営業時間は異なる場合があります。
[休日]不定休
[交通]東急東横線学芸大学駅西口から徒歩3分