シャッターが下りるその前に

人生ベスト5に入る極上の「四川風麻婆豆腐」【シャッターが下りるその前に】第3回『中国料理 味味』@学芸大学

20年間研究を続けて完成させた「北京水餃子」 これぞ唯一無二。例えば「トマト玉子炒め」(850円)もそう。すごくシンプルな構成なのに、奥深くて家庭では絶対に絶対に出せない味。華麗な手さばきで仕上げていく様は、まるでマジッ…

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日本で生まれ、幼少期に中国・南京へ、青年時代はアジアや南米を放浪しながら食べ歩き、帰国後は独自の中国料理で独立、腕1本でテレビや雑誌で話題の人気店に……。それだけでも映画になりそうな人生だ。主人公の店主は台湾と日本のハーフ、小林龍太さん73歳。舞台は東急東横線の学芸大学駅(東京都目黒区)から徒歩3分。料理の“味”も、店主のお人柄の“味”も、ふたつの魅力があふれる“味な店”。狙ったのか狙わないのか、その店の名は「味」×2で『味味』という。あ、ミミと読みます。

人気番組「きたなシュラン」で紹介された名店

初めて訪れた時はまあ戸惑った。一見、職人気質風の店主でビビったけど、話してみれば親戚のおじさまみたいにとってもお茶目でフレンドリー。席に座るや「何食べる?」からの「うーん、黄ニラと肉炒めかな」からの「麻婆豆腐オススメだヨ、食べる?」からの「じゃ、それに決めた、紹興酒もね」。

店主の小林龍太さん

あれ? 私この店の10年来の常連客だっけ。初めてなのに妙に居心地いい。ハッキリ言って店は狭いし(1階は4人がけテーブルひとつとカウンター4席、2階は10人の宴会もできます)、お世辞にもオシャレとは程遠~い雰囲気。ハマる人はどっぷりハマるが、そうでない人もいるかもしれない。とんねるずの人気番組の企画「きたなシュラン」でも紹介されたと聞けば、何となくおわかりですよね? 

ところがその小さな厨房から繰り出される料理の数々が、どれも反則でしょっ! と鼻息荒くなるほど美味しいのです。先の「四川風麻婆豆腐」(1人前1370円)なんて、高級店も含め人生で食べたそれのベスト5に入るもんね。ピリッとした花椒が香り高く、幾重にも旨みが重なった味わいは上海蟹を漬け込んだ紹興酒が隠し味。辛いだけじゃなく奥深い旨辛さっていうのかなあ。プロの技ってこういうことかあ~としみじみ思い知らされた。そうそう、「黄ニラと肉炒め」(1810円)もやっぱり食べたくて注文したけど、これも黄ニラのしなやかな食感と豚肉のコクが絶品。つまるところ、全部ヒット!

北京や上海などのほかアルゼンチンやカナダ、ハワイ…世界各地で食べ歩き

欠かせない名物のひとつが「ニララーメン」(920円)だ。紙吹雪のように丼一面に広がったニラの風情は常連曰く「緑の絨毯」。秘訣は生のニラをたっぷり使うこと。それを茹でた麺の上にドサッ。で、豚挽き肉と溶き卵が入った熱々の鶏ガラスープをジャーッ。後からかけることで生ニラの風味や甘みが際立つんだそうだ。麺を啜ればコロナ禍の憂鬱な気分も吹っ飛ぶ旨さ。程よい酸味がさっぱりで、油分はほぼないからスルスルスルッとまるで清流の如く胃袋へ。文字通り、麺食らった、いや面食らった。

「ニララーメン」

ホクホク顔で味わっていると、「美味しい? ニラはビタミン豊富だから、冬は風邪予防、夏は夏バテ予防になるヨ。お酒飲んだ後でもスッキリするヨ~」。ちょっぴりたどたどしい日本語で愛情たっぷり、満面の笑みでそう言われちゃったら、もう味に店主に惚れてまうやろー! そしてこう思うのだ。アナタ、一体ナニモノなの?

最初にも少し書いたが、店主の小林さんは台湾人の父親と日本人の母親の間に生まれた。5歳になる頃に中国・南京に家族で移り住み、自身は32歳頃まで暮らしたという。食べることが大好きで、20代の頃は北京や上海など中国各地はもちろん、アルゼンチンやカナダ、ハワイなど各地を旅しながら食べ歩き、「美味を覚えるのは自分で味わってみないとわからない」との信念で“舌”を磨いたそうだ。中国では技術職の会社員も経験したが、30代で日本に戻ってからは中華料理店でも働き、26年前の47歳の時に今の店をオープンした。
「私の料理は各地を食べ歩いて研究した独学の自己流。あっさりした味が好きだから、どれも油は控えめ。ヘルシーで美味しいヨ」

20年間研究を続けて完成させた「北京水餃子」

これぞ唯一無二。例えば「トマト玉子炒め」(850円)もそう。すごくシンプルな構成なのに、奥深くて家庭では絶対に絶対に出せない味。華麗な手さばきで仕上げていく様は、まるでマジックを見ているようだ。

もちろん帰国して苦労もした。日本での慣れない生活。ただ一生懸命だった。新橋の飲食店に勤務していた時は、あまりに真面目に取り組んでいたことで、社長から“仕事の鬼”と驚かれたそうだ。仕事もハード、寝る時間も少ない。曰く儲けも少ない。けれど、「プロだからね。美味しいと言ってくれる料理を作るのが楽しいし、好きなんだよ。一生懸命真面目に仕事をして、お客さんが食べて幸せになってくれることが私の幸せになる。お互いが幸せになるんだから、いい仕事だよね。飲食店は正直じゃないと長く続けていけない。もちろん味が美味しいことも重要だけど、真面目が一番。利益は後から回ってくるもの

「トマト玉子炒め」を作る

何だかジーン。利益優先や自己満足に陥りがちな世の中、働くということの本質を突き付けられた気がした。高級じゃなくていい。予約が取れない店じゃなくていい。“美味しい”は人を笑顔にする。幸せにする。人は“美味しい”の前では正直だ。3歳の子供がこの店の水餃子1人前5個をペロリと食べたという話には驚いた。まだ3歳ですよ、まあまあボリュームある餃子なのに、お替わりをねだったというから、その子のお母さんもびっくりしたそうな。

その「北京水餃子」(1人前5個630円)は20年ほど研究して今の味を完成させたという。二度挽きした豚肉、白菜、ネギの餡を練るのはあえて機械を使う。最初は手作業だったが、機械の方がより粘りが出て理想の味に近づいたから。モチモチの皮に包まれた餡は野菜の甘さと肉の旨みが渾然一体となり、ぶりんとした独特の食感。旨いなあ、私もお替わり!(3歳児と同レベルw)

秋から冬の時期になると上海蟹も名物で、紹興酒に漬けた「自家製酔っ払いカニ」(時価)を求めて遠方からもお客さんが駆けつける。テーブルに運ぶと付きっ切りで食べ方を説明してくれるのも、美味しく味わってもらうためだ。

体力の限界になったら引退するだけ(笑)」

土・日や祝日は昼からずっと通し営業。頑張っている源には、家族の存在もあるようだ。

「何で今までこんなに懸命に働いてきたかって、やっぱり子供たちを育てるためなんだよ」

つまり、根底に流れるのは愛なんです、愛! 愛情たっぷりの料理でお客さんを幸せにして、家族のために一生懸命働く。ちなみに長男は一流大学&大学院を卒業し、社会で活躍している。

跡継ぎ? いやいやこの店は自分が好きで続けている仕事だから、体力の限界になったら引退するだけ(笑)

そうか。そもそもお客さんのため、家族のために続けてきた店だ。料理の腕ひとつで子供たちを立派に育てあげ、彼らは才能を生かして好きな道を進んでいる。店を継いでほしいなんて微塵も考えていない。

健康の秘訣を聞けば、シークワーサーの栄養素が入ったサプリメントを見せてくれて、「これ飲んでるから、元気だよ」。ニカッと笑ったかと思えば、「今日はエビとソラマメの炒め物を用意してるけど、どう?」。うんうん、食べる、食べたいよ。美味しいに決まってるもん。もう私の心のシャッター開きっぱなし。

店のシャッターも、しばらく下ろす予定はない……ですよね、小林さん! 真面目に、正直に。変わらぬ思いで、大好きな料理を作るため、今日も厨房に立つのです。

文・撮影/肥田木奈々(ひだき・なな)

「中国料理 味味」

「中国料理 味味(ミミ))」の店舗情報 

[住所]東京都目黒区鷹番3-7-17
[電話]03-5721-0082
[営業時間]17時~翌1時、土・日・祝12時〜21時 ※新型コロナウィルス感染拡大の影響で、営業時間は異なる場合があります。
[休日]不定休
[交通]東急東横線学芸大学駅西口から徒歩3分

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