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今思えば、母もたまには夕飯作りの手を抜きたかったのだろう。母は年に数回、中日劇場や名鉄ホール、御園座へ観劇に行くことがあった。その日は決まって名鉄百貨店の地下で買ってきた焼売が食卓に並んだ。

「『寿屋』で買ってきたから美味しいよ」と、いつも母はそう言いながら箱に入った焼売を皿へ盛り付けていた。そのせいか、筆者の心に『寿屋』の焼売は美味しいと刷り込まれていった。実際、焼売は本格的な中華というよりもご飯に合う味付けだった。普段の夕食よりもご飯がすすんだことを覚えている。

60年以上にわたって名古屋で愛されてきた焼売と餃子

月日は流れ、筆者は『寿屋』のこともすっかり忘れてしまっていた。フードライターとなってからは同じ焼売でも、中華料理として美味しい肉焼売や海老焼売を追い求めていた。そんな中、名古屋市中村区で弁当の製造・販売を手がける松浦商店が『寿屋』を子会社化したという話を耳にした。

1937(昭和12)年から発売されている「天下とり御飯」(1150円)
1937(昭和12)年から発売されている「天下とり御飯」(1150円)
定番人気の幕の内弁当「こだま」(810円)
幕の内弁当「こだま」(810円)

あ、松浦商店のことを知らない方もいると思う。「天下とりご飯」や「こだま」と聞けば、ピンと来るだろう。そう、名古屋を代表する老舗の駅弁メーカーである。

松浦商店の4代目で専務取締役の松浦浩人さん
松浦商店の4代目で専務取締役の松浦浩人さん

「子会社化したのは、2019年です。まさかその翌年に新型コロナで弊社の駅弁部門が大打撃を受けるとは予想だにしませんでした。結果論になりますが、子会社化して本当によかったと思います」と話すのは、松浦商店の専務取締役、松浦浩人さんだ。

『寿屋 近鉄百貨店名古屋店』外観
『寿屋 近鉄百貨店名古屋店』外観

『寿屋』は昭和29年に名古屋駅前の名鉄百貨店の開業に伴い、コロッケや揚げ物の店として創業。焼売と餃子は昭和35年頃から販売を開始。現在は近鉄百貨店名古屋店の地下で営業している。

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永谷正樹
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