手作りならではの温もりとホッとする味わい
また、『寿屋』は焼売や餃子、中華まんの他、お惣菜の製造・販売を手がける『ゆきこおばさんの台所』や『仕度屋(まわしや)』という別業態のブランドも展開している。子会社化すれば、これまで松浦商店になかった名物を生み出すことができると考えたのだ。
『ゆきこおばさんの台所』は、名古屋駅と一宮駅にある名鉄百貨店や栄の名古屋栄三越、スーパーのパレマルシェ、ヨシヅヤなどに全9店舗展開している。筆者の自宅から近い店で「ポテトサラダ」(100g238円)と「マカロニサラダ」(100g238円)、「れんこんのきんぴら」(100g281円)、「切り干し大根」(100g260円)を買って食べた。
『寿屋』の焼売や餃子と同様に、際立ったインパクトはない。そもそも家庭の食卓に並ぶお惣菜にはそんなものは必要ないのだ。その代わり、手作りならではの温もりとホッとする味わいに心が和む。
「子会社化する前、お惣菜の調理工程を見学させてもらったときに衝撃を受けました。だし巻き玉子はきちんとダシからとっているし、黒豆を煮るときは鍋に錆びた釘を入れていました。当たり前といえば当たり前ですが、料理と向かい合う職人さんたちの姿勢に感動したんです」(松浦さん)
コロナ禍で誕生した冷凍商品と無人販売店
『寿屋』を子会社化して、さあこれから! というときに新型コロナウィルスの感染が拡大した。人々の外出や移動がなくなり、行事やイベントも軒並み中止。1回目の緊急事態宣言が発出されると、名古屋駅構内の店も臨時休業となった。
駅弁メーカーである松浦商店にとってもその影響は甚大、というよりも壊滅的だった。何しろ、駅弁の売り上げは9割減まで落ち込んだのだ。時間だけはあったので、松浦さんは企画や営業、製造の各部署に新しい事業のアイデアを募った。そこから生まれたのが、冷凍の焼売や餃子だった。
「昨年9月、中村区太閤に冷凍の焼売や餃子の無人販売店をオープンさせました。現在は、中区の上前津と北区の平安通、西区の浄心にも店があります。年内に5店舗を出店する予定です。無人販売店と並行して、自販機の設置も進めてきました。こちらは弊社1階の駐車場横とJR大曽根駅南口、JR鶴舞線名大病院口にあります」(松浦さん)
無人販売店や自販機で販売されている焼売や餃子は、すべて手作り。前にも書いたが、中華料理としての焼売・餃子ではなく、肉がたっぷり入った大ぶりな惣菜である。強烈な個性があるわけではなく、どこまでも素朴な味わい。ご飯のおかずはもちろん、ビールなどのお酒にもよく合う。
『ゆきこおばさんの台所』のお惣菜と『寿屋』の焼売、餃子。これらの技術が生かされた松浦商店の新たな駅弁もすでに登場している。それはまた別の機会に紹介しよう。
取材・撮影/永谷正樹