発酵と熟成 答えは、(2)の「塩辛」です。 塩辛は、細切りしたイカに肝臓と10~20%程度の食塩を加え、ときどき攪拌(かくはん)しながら10~20日ほど漬け込んで作ります。発酵と熟成の作用により、香気とうま味が生み出され…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「発酵食品」です。
文:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
腸内環境を整える
最近、腸内環境を整える効果があるとして、発酵食品が話題に上ることが多くなりました。発酵食品と言えば、だれでも知っているのが、ヨーグルトや納豆。また、醤油・味噌などの調味料や、酒・ワインなどのアルコールも発酵食品で、わたしたち日本人にとって、発酵食品は昔から身近にあるなじみの深いものです。しかしあらためて「発酵食品ってなに?」と問われると、戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。
さて、次のうち、発酵食品はどれでしょうか。
(1)干物
(2)塩辛
(3)熟成肉
発酵と熟成
答えは、(2)の「塩辛」です。
塩辛は、細切りしたイカに肝臓と10~20%程度の食塩を加え、ときどき攪拌(かくはん)しながら10~20日ほど漬け込んで作ります。発酵と熟成の作用により、香気とうま味が生み出されます。
(1)の干物は、魚を開いて洗浄した後、塩水に漬け、ふたたび洗浄した後、天日干しや陰干しなどで乾燥させます。水分をとばすことで、長期保存が可能となりますが、発酵は起こっていません。
(3)の熟成肉は、低温で微生物の作用による腐敗を抑えつつ、一定期間保存して熟成させたものです。この熟成によって、新鮮な肉よりも柔らかくなり、うま味が増すと言われています。
伊豆七島の特産品「くさや」
発酵とは?
「発酵」とは、細菌、酵母、カビなどの微生物が、タンパク質や糖などを分解してアミノ酸やアルコールなどの有益な物質を作り出し、味や栄養価が高まる過程を言います。同じ原理でも、人間にとって有益でないものを生成する過程は「腐敗」と言われます。たとえば牛乳は、特殊な菌を付加して適切に管理すると、発酵してヨーグルトやチーズとなりますが、ただ放置していると、雑菌が増殖して腐敗してしまいます。
発酵と熟成の違いとは?
「熟成」とは、微生物の働きによるものではなく、食品中に含まれる酵素などの働きによって、成分の分解や化学変化などが起こり、品質が変化する過程を言います。たとえば肉の熟成の場合、食肉を一定期間低温で保存することで、酵素の働きによりタンパク質が分解され柔らかくなり、アミノ酸が増加して美味しくなります。
したがって、微生物の働きによるものかどうかが、「発酵」と「熟成」との大きな違いです。しかし、たとえば味噌は、米や麦を麹菌により発酵させ、発酵後の熟成の段階では麹菌由来の酵素の働きやメイラード反応(化学変化)などにより味や成分が変化しますが、この発酵と熟成との線引きは難しいとされています。
干物の「くさや」は発酵食品
微生物の活動には水分が必要ですが、干物は乾燥させることによって微生物が利用できる自由水を減らし、微生物の作用を抑えます。これにより保存性が高まるのです。水分を減らすことにより味が濃厚になり、保存中の熟成によりうま味が増しますが、微生物の作用を抑えているのですから、これは発酵ではありません。
一方、伊豆七島の特産品「くさや」は、ムロアジなどを洗って内臓を取り出し、十分に水洗、血抜きを行った後、くさや液に浸し、その後天日干しなどで乾燥させます。くさや液とは、干物を作る際に漬ける塩水を、何十年にもわたり繰り返し使用したもので、微生物の作用で独特の臭気を持ちます。くさやと一般的な干物との違いは、くさや液を用いるかどうかですが、このくさや液の微生物の作用により、くさやでは発酵が起こります。したがってくさやは発酵食品です。
(参考)
「水産の発酵食品-塩辛・くさや・ふなずし・糠漬け―」藤井建夫