龍が舞い、獅子が踊る。竹林の静寂、松の見事な枝振り……。さまざまな時代の中で描かれてきた障屏画が、いまも往時の姿そのまま社寺や邸宅に数多く残る京都。長谷川等伯、狩野永徳に代表される狩野派、俵屋宗達、尾形光琳、円山応挙などなど、一度は耳にしたことのある世に名を馳せた絵師たちの描く世界がそこに広がります。
現在では文化財保護という観点から、本物を精密にコピーしたものを設えるところも増えていると聞きますが、それでも彼らの力量に圧倒され、“やっぱり観てよかったなぁ”と心震わされるのは、大人だけの話? 子供たちだったらどう感じるのだろう……。
でも、せっかくの京都。子供たちと一緒に社寺にも行きたいし、京都ならではの感性に少しでも触れて欲しいと思うのも親心。そこで考えました。子供も楽しめる障屏画のあるところへ行けばいいんじゃないかと。
襖絵の印象を完全に覆す、驚き極彩色の襖絵。
最初に訪れたのは山科にある隨心院。991(正歴2)年の創建、小野小町ゆかりの寺としても知られる門跡寺院。境内周辺には小町に由来する井戸や文塚などが遺ります。
お目当てはSNSでも話題となった「極彩色梅匂小町絵図(ごくさいしきうめいろこまちえず)」。なんとこれがCGの襖絵! 2009年に奉納されたもので、作者は京都在住の絵描きユニット『だるま商店』。極彩色の影絵のような作風で、綿密な下調べによる緻密な書き込みによって小野小町の一生が描き込まれています。
“ド派手なピンク!”と言ってしまいそうですが、これはあざやかな薄紅色を指す「はねず色」。隨心院に咲く梅の花にちなんだ色だそう。左から出羽の国(秋田県)で生まれ育った様子を描く「誕生の図」、宮仕え時代の「饗宴の図」、宮仕えを辞し山科小野の里で過ごす「伝承の図」、山科小野の里を出て諸国を放浪する「夢幻の図」で、4面の襖に小町の生涯が描かれています。
「伝承の図」では隨心院がモチーフに。小野氏の屋敷は姿がわからないため、このような形になったのだとか。「書き込みが緻密なので今でも新しい発見があります」と僧侶・佐伯響月さん。小町の数奇な人生を詳しく知る人ほど発見も多いのだとか。幾度も訪れる人がいるのも納得。きっと子供たちにも親しみやすく分かりやすい、新しい襖絵の姿です。
表書院には金箔がまぶしい「四季花鳥図」や、中国の賢人を描き一部がだまし絵になっている「四愛図」が。奥書院には「宮廷人物図」、「竹虎図」など、江戸初期の狩野派による絵もたっぷり。歴史的な遺産にももちろんにも合えます。
市街地から少々離れた場所にあるので、子供たちもゆっくりじっくり襖絵を見学できるのではないでしょうか。