動物写真家・小原玲さんを語る

不肖・宮嶋が「エゾモモンガの飛行シーン」写真に感激したワケ

動物写真家の小原玲さんが60歳で亡くなって、11月17日でちょうど1年が経ちました。小原さんは写真週刊誌『フライデー』の専属カメラマンを皮切りに、フリーの報道写真家として国内外で活躍後、動物写真家に転身。最後の被写体にな…

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動物写真家の小原玲さんが60歳で亡くなって、11月17日でちょうど1年が経ちました。小原さんは写真週刊誌『フライデー』の専属カメラマンを皮切りに、フリーの報道写真家として国内外で活躍後、動物写真家に転身。最後の被写体になったのは北海道に生息するエゾモモンガでした。16日には遺作写真集『森のちいさな天使 エゾモモちゃん』(講談社ビーシー/講談社)が出版され、24日からは東京都内でメモリアル写真展が開かれます。小原さんとフライデー時代の同僚で報道カメラマンの宮嶋茂樹氏(61)が、親友の撮影にかけた熱い思いを振り返ります。

写真集『森のちいさな天使 エゾモモちゃん』(講談社ビーシー/講談社、1430円)

マイナーな動物を選んで、売れてしまうのがスゴい

あれから一年か。それでやっとあいつの作品を観れるのか。

最後のターゲット…失礼、被写体に選んだのがエゾモモンガか…モモンガとムササビの違いも知らんが、それは存じあげていた。今度も小さい「被写体」で動きが早く、めったに人目につかないことも。その困難極める長期に渡るであろう撮影のため北海道に移住していたことも。

それにしても、驚いた。モモンガの飛行シーンなんてどうやって撮ったんや?これ小さいやろ、しかも一瞬や。その一瞬がいつになるか分らんからずっとシャッターボタンに指かけたままのはずや。そしてどうやっていつどこに飛ぶかもしれんこの被写体にフォーカスとったんや?プロのワシらが見てもわからん。カメラはソニーとしてもや…他のデータが思いつかん。あの世に行ってから教えてもらえるとしても、あいつは天国行けてもワシは行かれへんやないか。

それにしてもよくもまあ前作「シマエナガ」に続き、こんなマイナーな動物を選んだものである。それで売れてしまうのがあいつのスゴいとこでもある。

しかし、あいつがその時すでに不治の病に冒されていたことはつゆ知らず、網走からの電話で相談を受けた。かなりの遠距離からカメラをリモート操作できる機材に心当たりはないかと。人の目を極端に嫌うエゾモモンガの飛行シーンを狙っていることは容易に想像ができた。

小原玲写真集『森のちいさな天使 エゾモモちゃん』(講談社ビーシー/講談社)より

ライカを使ったリモコンカメラ

実は我々が写真週刊誌の現役カメラマンの時代には、いや現在もそうかも知れぬが、各編集部やカメラマンたちはリモコンカメラの開発にいそしんでいた。しかし当時のリモコンカメラは今のデジタル技術からするともはや原始的とも見えるシロモノであったが。

それでもどこそこの編集部は、画像を確認しながらシャッターが切れるリモート機材を開発したらしいやの、あのカメラマンは動画(当時はビデオ)も撮れる機材を改造し、それを持っているだのそんな情報に我々はふり回され右往左往していたのである。

そして「フライデー」と「フォーカス」という二つの写真週刊誌を渡り歩いたという稀有な存在だったあいつは、どこで得た技術か知らんが、当時も今も高価なドイツ製カメラ、ライカを使った、リモコンカメラを作りあげてしまったのである。しかもカメラと同じ値段ぐらいしたモータードライブ付きで。

ライカだけではない。レンズでもスピードライト(ストロボ)でもあいつは、無名でも安物でも新参メーカーでも良いと思った機材は積極的に使った。デジタルカメラにとって代わってからはシマエナガはフジフイルム製カメラで、エゾモモンガはソニーのカメラと、メイン機材まで躊躇することなく切り換えてきた。

そのあたりも、学生時代から40年以上、キヤノン製カメラをメインに使い続ける不肖・宮嶋と大きく違うところである。

動物写真に応用できないか

そんなあいつにリモコンカメラの教えを乞われたのである。

実は不肖・宮嶋、四年前には長距離リモート機材をすでに完成させていたのである。

それは動物写真とは全く関係なく、アメリカはハワイ州での日米両軍による地対艦ミサイルの実弾射撃シーンを撮影するためにである。ミサイル発射の瞬間の爆風をさけるためまた自身の安全のためランチャー(ミサイル発射装置)近くにカメラをセットしたら、1.5キロ以上離れて、カメラを操作する必要が生じたからである。サッカーの試合で迫力あるゴールシーンを撮影するため、ゴールネットすぐ近くのフィールドに置いたカメラを100メートル足らずの距離でリモート操作できる程度の市販の装置ではとても役に立たんかったのである。

そうやって遠距離リモコン装置を自慢そうに方々で吹聴していたのをあいつが聞きつけ連絡よこしてきたのである。

報道写真の技術が動物写真にも応用できぬものかと。

それをあいつがどういう状況で使うつもりだったのか今となっては知る由もないが、結局あいつが課したきびしい条件にかなわなかったのか、不肖・宮嶋の遠距離リモコン機材があいつの手に預けられることはなかった。

報道写真も、動物写真も、やってる事は同じ

思えば報道写真も動物写真もターゲットと場所は違えど、やってる事は同じである。

大海に落ちた針のごとくターゲットを捜しだし、あらゆる困難を乗り越え、近づき、そして、いかなる環境下になっても、いつでも撮れるよう集中力を切らすことなく、ひたすら待ちつづける。いつか撮れると信じて。

これらの作品からあいつの自然に対する無限の愛がうかがえるやの、命を削ってまでも撮りつづけた力作だのの評価は他の皆様におまかせしたい、

しかし、想像していただきたい。

これら1カット、1カット、たった1カット撮るためだけに何時間もいや何日もシャッターボタンに指をかけたまま待ちつづけた写真家の姿を。

そこは北海道である。どれほど寒かったか、沼地なのか崖っぷちかどれほど危険な場所なのか、さらにそこにたどり着くまでに何キロ森をさまよったのかを。

そして感じていただきたい。動物写真家に転じてからも、小原玲氏が生涯忘れえなかった報道写真家としての矜持を。

小原玲写真集『森のちいさな天使 エゾモモちゃん』(講談社ビーシー/講談社)より

宮嶋茂樹(みやじま・しげき)
1961年、兵庫県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。写真週刊誌『フライデー』専属カメラマンを経てフリーランスの報道カメラマンとして活躍し、イラクやコソボなど世界各地でもスクープ写真を撮影。2022年はロシアが侵攻した直後のウクライナに入り、1カ月以上にわたって取材を敢行した。5月には再度現地へ。ウクライナ取材での写真を多数収録した最新刊は『ウクライナ戦記 不肖・宮嶋 最後の戦場』。公式HP「宮嶋茂樹儂・サイト」https://fushou-miyajima.com/

小原玲(おはら・れい)
1961年、東京生まれ。茨城大学人文学部卒。写真週刊誌『フライデー』専属カメラマンを経て、フリーランスの報道写真家として国内外で活動。1989年の中国・天安門事件の写真は米グラフ誌『ライフ』に掲載され、「ザ・ベスト・オブ・ライフ」に選ばれた。1990年、アザラシの赤ちゃんをカナダで撮影したことを契機に動物写真家に転身。以後、マナティ、プレーリードッグ、シマエナガ、エゾモモンガなどを撮影。テレビ・雑誌・講演会のほかYouTubeに「アザラシの赤ちゃんch」を立ち上げるなど様々な分野で活躍した。写真集に『シマエナガちゃん』『もっとシマエナガちゃん』『ひなエナガちゃん』『アザラシの赤ちゃん』(いずれも講談社ビーシー/講談社)など。2021年11月17日、死去。享年60。

カメラマン故小原玲 メモリアル写真展「モフモフ wa カワイイ」天国からの贈り物
期間:11月24日~30日(26日と27日は休館)
会場:セレモア紀尾井町本社セミナー会場(東京都千代田区紀尾井町3-12紀尾井町ビル6階)
時間:10時~17時
入場料:無料

カメラマン故小原玲 メモリアル写真展
カメラマン故小原玲 メモリアル写真展

【小原玲さんの関連グッズ】
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シマエナガちゃんTシャツ
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