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「お前も随分なことを訊くなあ」

小田和正のあのハイトーン・ヴォイスと叙情的なメロディの楽曲を軟弱で女々しいという声もあった。1990年代初期、小田和正が金沢市でコンサートを行った時、同行した。ぼくは勇気を出して、“いい歳の大人であるのに、何故にあのようなハイトーン・ヴォイスで、人によっては女々しいと受け止められる曲を歌い続けるのか”と訊いてみた。

“お前も随分なことを訊くなあ。まあ、俺の音楽が嫌いな奴はそう思っているんだろうな。だけどしようがないじゃないか。楽器を持って曲を作ろうとする。ボローンと鳴らす。するとメロディがすっと降りてきて、お前が言った声で歌っているんだから。性というか、それが俺の音楽なんだ”

それに続いて小田和正はぼくに質問をした。

“岩田くん、日本の人口、知ってるよな”

“1億2、3千万人くらいですかね”と答えた。“そう、それくらいだろう。その中にはお年寄りや幼児もいるので、音楽を聴く可能性のある人は1億人くらい存在するはずなんだ”

ぼくは話の先がどこへ行くのか読めなかった。

“ミリオン・セラーというのは1億人の中の100万人が買ってくれれば良いわけだ。100人にひとりが買えばミリオンになる。100人に1人、俺の声や曲が大好きで中毒になってくれれば、残りの99人にあんな女々しい声、大嫌いと言われていいんだ。さっき、音楽を聴く人たちが1億人って言っただろう。100人中99人に嫌われようと、1人が大好きと言ってくれれば、1億人÷100で約100万枚売れるってことだろ。そう思って、いつも曲を作っているわけじゃないけれど、この数字は頭の中にあるのさ”と小田和正は締めくくった。

そして話を続けてくれた。

“苦労して、やっとヒットしたら、今度は女々しいと言われるわけだ。それで、よく考えてみたら、100人に1人という発想に辿り着いた。そうしたら楽になったよ。大多数の人が何と言おうと、俺のことを好きな人がいて、セールスもちゃんと残してるんだからね”

ぼくは、もしかしたら失礼な質問をしたと小田和正に詫びた。小田和正は笑って許してくれた。素顔の小田和正は男らしく、何でも話せる兄貴分のような人なのだ。

オフコース、小田和正のアルバムの数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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