バンタム級(リミットは53.5キロ)の最強ボクサー、井上尚弥選手(29)が日本人初の主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO) 統一に向けて、 残すWBOのベルトを狙い王者ポール・バトラー選手(イギリス)と12月13日…
画像ギャラリーバンタム級(リミットは53.5キロ)の最強ボクサー、井上尚弥選手(29)が日本人初の主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO) 統一に向けて、 残すWBOのベルトを狙い王者ポール・バトラー選手(イギリス)と12月13日に東京・有明アリーナで対戦します。
その強さゆえ、日本ボクシング史上最高の選手という呼び声も高い井上選手は、練習と同じくらい、体作りの基礎となる食への高い意識を持っています。井上選手の肉体はどのような食によって作られているのか?グルメをメインテーマとする「おとなの週末Web」は食の観点から全3回にわたり、その秘密にスポットを当てました。ダイジェスト記事で内容を振り返ります。
【第1回】井上尚弥が一番焦った試合とは?
2012年に大橋ボクシングジムからライトフライ級(48.9キロ)でプロデビューした井上選手。
幼少期よりボクシングを指導してきた父・真吾さんとの父子鷹で23戦23勝と無敗で連勝街道を歩んでいます。
2013年、4戦目に同階級国内王者の田口良一選手(現在は引退)を判定で下し、日本王座を獲得、2014年に6戦目でWBC王者のアドリアン・エルナンデス選手(メキシコ)を倒し、世界王座に就きました。
エルナンデス戦は3週間前にインフルエンザに感染し、ただでさえ体格的にライトフライ級での減量そのものが厳しくなっていることに加え、2週間で約10キロ減らすという過酷な状況に陥ってしまいました。数日間の絶飲食で計量は何とかクリアできましたが、満足な練習もできず、最悪のコンディションで試合を迎えます。
試合は6RKOで勝利したものの、井上選手自身が減量に難しさを感じていたことや、体調管理がうまく行かなかったこと、体重だけなく強靭な肉体を手にするため、栄養面の強化の重要性も感じていたことから、試合後の2014年7月から大手食品会社「明治」の管理栄養士、村野あずささんによる栄養指導がスタートしました。
ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(1)井上尚弥が一番焦った試合とは
ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(1)井上尚弥が一番焦った試合とは
(※上記は、記事の一部。内容は当時です)
【第2回】井上尚弥は胃腸も強かった 最強ボクサーを支える勝負メシとは
管理栄養士の村野さんはまず、現時点での課題を確認し、減量時だけでなく日常の食環境や栄養摂取状況を把握するためにカウンセリングと3日間の食事調査を実施しました。
「食事調査の分析結果では、栄養状態や食べ方に偏りがあり、それがボクシングのパフォーマンスやコンディショニングにとってどう影響するかなど一つ一つ確認をしていきました。当時は独身で実家暮らしだったため、食事を作るお母様とも連携させていただき、度々食事の写真を送ってもらい井上家の食卓に並ぶ食事の内容を見させてもらっていました」(村野さん)
「試合の度に10キロ以上の減量があるため、普段の食事と減量期間の食事があまりにもかけ離れたものですと減量時のストレスや試合後の反動などその後のコントロールが大変になります」と村野さんは話します。ですが、井上選手の家庭では、出汁を基調としたひじきやカボチャの煮物、きんぴらごぼう、もずく酢など日頃から減量にも備えやすい和食が中心の食生活だったと言います。
最近では若い選手が和食を食べる習慣がなかったり、偏食傾向にある選手も多く、食事の指導が難しいケースもあるそうです。
「井上選手は、日頃からものすごくよく食べます。幼少期から体に良いものをしっかり食べて育ったからこその『食べる力』を育み、あの胃腸の強さにつながっているのだと思います。また、階級を上げることによってしっかり食べていい練習を継続できることも大きいと思います。やはり日頃から栄養が摂れていないと強い体づくりやコンディションを維持するのは難しいと思います」(村野さん)
村野さんは「食べる力と、胃腸の強さ」が井上選手の強さの要因のひとつと力説します。それゆえに、日々のトレーニングがより充実したものになり、パフォーマンスの向上につながっているのです。
井上家には井上選手が試合前に必ず食べる「特別な食事」があります。
トレーナーでもある父・真吾さんがつくる特製雑炊、その名も「真吾スペシャル雑炊」です。現在、スーパーバンタム級で活躍する弟の拓真選手(WBOアジアパシフィック、日本王者)も試合前に食べています。
主に鶏肉、もち米、雑穀米、きくらげをはじめとするきのこ類、にんにくや葉物野菜など10種以上の具材を盛り込み、すっぽんスープを隠し味に入れています。具材は試合ごとに替わるそうで、かつてはサムゲタン風の味付け(当時は真吾さんの名前にちなんで「シンゲタン」と呼んでいたそうです)をしていたこともあります。減量直後の体に受け入れられるように消化に良く、エネルギーになりやすい具材をそろえました。
ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(2)井上尚弥は胃腸も強かった 最強ボクサーを支える勝負メシとは
ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(2)井上尚弥は胃腸も強かった 最強ボクサーを支える勝負メシとは
(※上記は、記事の一部。内容は当時です)
【第3回】階級の規定体重ぴったりに仕上げる井上尚弥の美学!
最終回の第3回はボクシングの階級のお話です。
なぜ、ボクシングに階級が定められているのでしょうか?
ボクシングは競技の性質上、打撃の力を体重に因る部分が大きいからです。階級ごとに体重設定をすることで、試合中の事故のリスクをできるだけ軽減できるようにしています。選手も自分の骨格に合わせて最適な階級で戦うため、試合前に減量するケースがほとんどです。
井上選手の平常時の体重は61~62キロ。 バンタム級の試合では試合に向けて8キロほど減量していきます。試合直前に体重を大きく減らすことができる「水抜き(体内の水分を短期間で抜き、体重を減らす方法)」には頼らず、 練習量と食事を数日単位で計算し、体重調整をしています。
水抜きは短期間で体重を減らせることから、行うボクサーも少なくありませんが、それゆえ体への負担も大きく、主たる減量法として推奨されるものではありません。
2014年から井上選手の栄養指導を担当する大手食品会社「明治」の管理栄養士の村野あずささんは、「水抜きや絶食をしてしまうと、内臓にダメージが残り、仮に計量をクリアしても戦える状態にない選手も見られます。そのような状態からでは試合までの体調のリカバリーがとても難しいです」と話します。
村野さんの指導を受ける以前は井上選手も、水抜きに頼っていたことがありました。しかし、試合前の体調不良と重なって、試合中に100%のパフォーマンスを発揮できなかったことがあったため、その反省を生かして、現在は計量前日の体重調整で行う程度で計画的に体重管理をしています。
井上選手は著書で「減量と練習はセット」と語り、そのプロセスも重要視しています。何日前の段階でリミットまであと何キロだったかという事を次の試合の減量に生かせるように、細かく記録します。
体重に対しては強いこだわりがあるそうで、「計量の際、自分の階級の規定体重ピッタリに仕上げて体重計の上でポーズを決めることを美学として貫いている」(村野さん)と言います。6月に行われたノニト・ドネア選手(フィリピン)との試合にぴったり53.5キロで仕上げ、計量終了後には「(減量が終わってしまう事に対し)寂しい」と余裕を感じさせるコメントを残しています。
最近ではボクシングのみならず、格闘技全体で減量失敗のニュースも散見されますが、井上選手がそれとは無縁である理由は、最後の最後まで細部にまでこだわって徹底した準備を重ねているから。あのリングでの圧巻のパフォーマンスはそういった影の努力の賜物でもあるのです。
ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(3)階級の規定体重ぴったりに仕上げる井上尚弥の美学
ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(3)階級の規定体重ぴったりに仕上げる井上尚弥の美学
(※上記は、記事の一部。内容は当時です)
文/おとなの週末Web編集部、写真提供/明治
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