新横浜ラーメン博物館・あの銘店をもう一度

伝説の「呼び戻し」スープの旨みと深いコク、九州ラーメンの重鎮・久留米『大砲ラーメン』【新横浜ラーメン博物館・あの銘店をもう一度】第8弾

昔のラーメン

大砲ラーメンの歴史 初日の売り上げはわずか18杯 大砲ラーメンの歴史は戦後の復興期となる昭和28年、初代・香月昇(かつき・のぼる)さんが久留米の明治通り沿いに屋台を開業したことに始まります。屋号の「大砲ラーメン」は昇さん…

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新横浜ラーメン博物館(横浜市)は、30周年を迎える2024年へ向けた取り組みとして、過去に出店した約40店舗が2年間かけて3週間のリレー形式で出店するプロジェクト「あの銘店をもう一度」を2022年7月1日から始めています。このプロジェクトにあわせ、店舗を紹介する記事の連載も同時に進行中。新横浜ラーメン博物館の協力を得て、「おとなの週末Web」でも掲載します。

第8弾は、福岡・久留米「大砲ラーメン」です。

昭和28年創業の“久留米の雄”

第8弾は、昭和28年創業、半世紀以上継ぎ足されてきた旨味と深いコク、伝説の「呼び戻し」スープが味わえる、久留米の雄「大砲ラーメン」さんの登場です!

店舗名:久留米「大砲ラーメン」
住所:福岡県久留米市通外町11-8
営業時間:10時半~21時
電話0942-33-6695
創業:昭和28年
創業者:香月昇、二代目:香月均史

・過去のラー博出店期間
2009年12月19日~2013年1月14日

ラー博出店時の大砲ラーメンの外観と行列

岩岡洋志・新横浜ラーメン博物館館長のコメント

「とんこつラーメンの発祥の地、福岡県久留米市で今もなお地元に根付き繁盛を続けている銘店です。呼び戻しという技法により生み出されるスープは、経験を積んだ限られた職人しか作れない大砲ラーメンの命です」

九州ラーメンの発祥の地は「博多」ではなく「久留米」

今や誰もが知っている「とんこつラーメン」も30年前、九州を除く地域ではあまり知られていない存在でありました。その後、とんこつラーメンの認知度は高まり「とんこつラーメン=九州」というイメージは日本全国に定着しました。その背景には、博多・長浜を中心とするお店が首都圏に進出し、「極細麺」、「替玉」、「バリカタ」等、それまで知られていなかった物珍しい食文化に反応したからです。

そのような背景があった結果、九州ラーメンの発祥は「博多」と思われている人が多くいますが、九州ラーメン及びとんこつラーメンの発祥は同じ福岡県の「久留米」なのです。

とんこつラーメン発祥の地のモニュメント

九州ラーメンの歴史 「三九」の味が九州全域に広がる

九州ラーメンの発祥は、昭和12年創業の久留米「南京千両」です。創業者の宮本時男さんは昭和10年頃、弟の豊さんから「東京や横浜には『支那そば』という美味しいものがあると聞きつけ、横浜の南京街(現中華街)や東京の屋台で味の秘密を習得し、昭和12年に西鉄久留米駅前の明治通りに屋台を開業しました。

そして現在の白濁したとんこつラーメンの源流となるお店が昭和22年に誕生した「三九」です。店主・杉野勝見さんは大阪で屋台を開いていた老人から口伝でラーメンの作り方を教えてもらい、そのスープは透明感あるもので、関東の支那そばと同じものでした。

しかしある日、火加減を頼んで買出しに出かけたのですが、帰りが遅くなり帰宅した杉野さんが目にしたのは、燃えるカマドの火で沸騰し白濁してしまったスープ。「これじゃ売り物にならん!」と捨ててしまおうかと思ったものの味付けして食べてみると、実に深みとコクのある味でした。こうして誕生した白濁スープは人気を呼んだのです。その後「三九」の味は約100人とも言える弟子や孫弟子によって広まり、九州全域に伝播したのです。

大砲ラーメンの歴史 初日の売り上げはわずか18杯

大砲ラーメンの歴史は戦後の復興期となる昭和28年、初代・香月昇(かつき・のぼる)さんが久留米の明治通り沿いに屋台を開業したことに始まります。屋号の「大砲ラーメン」は昇さんが「家を飛び出したら最後、二度と戻らない鉄砲玉のような人」だったことにちなみ、鉄砲では小さい、でっかく大砲にと、命名されました。

大砲ラーメン創業者・香月昇さん

初日の売り上げはわずか18杯。初代は前日の売り上げを手に、熊本まで良質の豚骨を買い付けに出かけながら「とにかくいいスープを作りたい!」と毎日このことばかり考えていたようです。その一念で誕生したのが大砲ラーメンの代名詞となる「呼び戻し」スープです。
※ 「呼び戻し」は(株)大砲の登録商標です。

昭和30年前後の大砲ラーメン店内

その一方、二代目・香月均史(ひとし)さんは当時、家業を継ぐ意思がなく、グラフィックデザイナーと音楽活動という夢にむかって突き進んでいました。しかし、昭和51年、先代夫婦が突然同時に倒れ、均史さんは家業を継ぐことを決意したのです。

二代目・香月均史さん

久留米の街をラーメンの殿堂に

二代目・香月均史さんは、平成元年、大砲ラーメンの代表取締役社長に就きました。均史さんの代になり、大砲ラーメンはどんどん発展していきました。しかし、均史さんはアーティストになる夢を諦めてまでラーメン職人になったのだからもっと何かできるのではないか?と常に考えていました。

平成9年に初代・昇さんが他界したことを機に、初代が戦後の低迷期にラーメンで希望を与えたのと同じように「もしかしたらラーメンが再び久留米復興の原動力になってくれるかもしれない、自分たちラーメン店を育ててくれた久留米のまちに今こそ恩返しするときではないか」と思うようになり、全国初の「民・官・学」が一体となったまちおこし組織 「久留米・ラーメン ルネッサンス委員会」を立ち上げたのです。

そして1999年「ラーメンフェスタ in 久留米」が開催されました。このフェスタには市内のラーメン店7店舗と、県外の3店舗が協力。2日間で延べ14万人のお客さんが訪れ、駅や周辺道路が大混雑するほどの盛況でした。その後もラーメンフェスタは毎年開催され(2004年まで)、この活動が認められて地域づくり総務大臣賞を受賞したのです。

第1回ラーメンフェスタin久留米(1999年)

初代が生み出し、二代目が命名した伝説の「呼び戻し」スープ

大砲ラーメンには創業以来、営業終了後も空にしてこなかったスープ釜があります。毎日、その釜の熟したスープに別の釜で作った新しいスープを少しずつ継ぎ足し、より深いコクと旨みを出しました。初代・昇さんが試行錯誤の上で生み出した技法です。濃厚でありながらもまろやかな口当たりの味。初代が作り上げた技法を二代目・均史さんが「呼び戻し」と命名しました。

半世紀以上つぎ足し続けた伝説の「呼び戻し」スープ

この技法は単純に継ぎ足すのではなく、季節や日によって調合が異なるために高い技術を要します。均史さん曰く「呼び戻しとは、積み上げられた歴史の味を今日に残すという意味で、勘と経験が物を言います。技術を身につけるまで最低でも3年の年月が必要です」とのこと。

そして、半世紀以上たった現在もその釜のスープを絶やすことはありません。今回のラー博出店の際も釜から釜へ、店から店へと「スープ分け」を行うことで、創業当時から熟成され続けた「呼び戻し」スープは引き継がれるのです。

とんこつにうるさい九州人を虜にする

「大砲ラーメン」は2023年に創業70周年を迎える老舗でありますが、これまであえて九州を出ずに地元に根付いた展開を行ってきました。そのため首都圏ではあまり知られていない存在ではありますが、地元久留米のみならず九州全域では誰もが知っている存在なのです。

実際のところ、過去の雑誌の特集で、九州在住の524人が投票するランキングにおいて1位を獲得するほどの人気度・知名度で、その時の2位以下の店舗は首都圏でも人気を博しているお店であることを考えると、九州における「大砲ラーメン」の位置づけはおのずと想像がつくものです。

このことが「九州ラーメンの重鎮」の所以なのです。

昔ラーメン

大砲ラーメンのとんこつスープ

大砲ラーメンのとんこつスープは他の食材は一切使用せず、豚骨だけを用いています。この豚骨を強火で濁らせながら、長時間(創業以来、継ぎ足し仕込み《通称:呼び戻し》で半世紀)骨の髄までひたすら炊き続けたものです。そして味付の調味料は、味噌・醤油に頼らずに“塩”が基本になっているのも特徴のひとつです。

旨味とコクを兼ね備えたスープ

麺には国産小麦を独自にブレンドした大砲ラーメン専用粉を使用し、スープとの絡みを考え、低加水(麺に加える水の)のストレート中細麺で、コシと滑らかさがあります。

低加水のストレート細麺

久留米のラーメンの特徴と言われながら姿を消してしまったのが通称「カリカリ」で、手作りの昔ラードから生まれる豚脂の揚玉です。昔ラーメンのみに入っている具材です。

通称「カリカリ」豚脂の揚玉

メニューは創業の味でこってり系の「昔ラーメン」と定番まろやか系の「ラーメン」の2種類が楽しめます。

是非この2種類を食べ比べてみてください。

まろやか系のラーメン

「ミシュランガイド福岡・佐賀2014 特別版」に掲載

2014年7月、福岡・佐賀の2県を対象とした「ミシュランガイド福岡・佐賀2014 特別版」が発売されました。「ビブグルマン」の受賞対象店舗は福岡エリアで66店舗、うち4店舗がラーメン店で、大砲ラーメンがその中で2店舗(本店・長門石店)受賞の快挙となりました。

あの銘店をもう一度・第8弾・「大砲ラーメン」

出店期間:2022年11月25日(金)~12月15日(木)
出店場所:横浜市港北区新横浜2-14-21 
     新横浜ラーメン博物館地下1階
     ※地下1階八ちゃんラーメンの場所です。
営業時間:新横浜ラーメン博物館の営業に準じる。

※「大砲ラーメン」の出店は、2022年11月25日~12月15日で終了しています。

『新横浜ラーメン博物館』の情報

住所:横浜市港北区新横浜2-14-21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時~21時、土日祝10時半~21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人380円、小・中・高校生・シニア(60歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円

※協力:新横浜ラーメン博物館
https://www.raumen.co.jp/

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