近年、ラーメンのトッピングのひとつとしてワンタンを取り入れる新店が急増している。決して目新しいというわけでもないのになぜ、いまワンタンが増殖しているのか――。店主たちに聞いてみた。
コスパがいい?されど実力が試される具材
「またおま(またお前か)系」と呼ばれるほど、濃厚豚骨魚介系のラーメンやつけ麺が台頭していた時代もいまは昔。2010年頃からワイルドで濃厚とは対極にある淡麗系ラーメンがもてはやされ始め、いまもその流れは続いている。そんな中で、急増しているのがワンタントッピングだ。
淡麗系ラーメンを出す多くの新店で、ワンタンはもはや定番のトッピングとなりつつある。なぜトッピングに加えようと思ったのか。ワンタンを取り入れている店主たちに聞いてまわったところ、一番多かった回答が「自分自身が、ワンタン好きだから」という拍子抜けするほど単純なものだった。
しかし、裏を返せば、それだけ多くの店主たちに「好き」と思わせた店があったということだ。『支那ソバ おさだ』の店主、長田翔さんは、「浜田山『たんたん亭』の影響が、少なからずあるのでは」と話す。『たんたん亭』とは1977年に創業した東京屈指のワンタンの名店で、池尻大橋『八雲』や目黒『支那ソバかづ屋』といった多くのワンタンメンの名店を輩出している。
先の『おさだ』の店主は、『かづ屋』の出身。「『たんたん亭』系の店にとって、ワンタンはトレードマークであり、はずせない要素。自分が独立する際には、絶対にワンタンを入れようと決めていました」(長田さん)。
こうした『たんたん亭』の孫弟子たちが、ここ10年ほどの間に一斉に独立開業していることもまた、近年のワンタンブームを勢いづけている理由のひとつではないかと推測される。
もうひとつ、大きな原因として考えられるのが、自家製麺の波。業界のスープレベルが総じて上がっていくにつれて、近年、“麺”で差別化を図ろうとする店が増えてきている。自家製麺や手打ち麺の店が増えているのはそのためだろう。自家製麺の延長で、「ワンタンの皮も自家製で」と考えるのは自然な流れといえる。
「麺を楽しむ、小麦を楽しむ、という考えの延長にあるのがワンタン。肉(餡)も皮も楽しめるワンタンをのせることで、特別感が演出できるところも、トッピングに取り入れようと思った理由のひとつです」といった声も複数寄せられた。
さらに聞き込みを続けると、ワンタンは非常にコスパのよいトッピングだということもわかってきた。「主な材料は挽き肉なので、原価をかけずに豪華に見せられる点が魅力です。手間はかかりますが、チャーシューを1種類増やすのとワンタンを増やすのでは、コストも違いますから」と某店主。
ただし、「包み方が甘いとはがれてしまう、さっと茹で上げないとくっついてしまう、餡のジューシーさを出すのが難しい、といったほかのトッピングにはない課題がある」とも。シンプルに見えて奥が深いワンタンは、職人の腕の見せどころでもあるのだ。
撮影/小島昇、取材/松井さおり
※2023年2月号発売時点の情報です。
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