「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「カレーの日」です。
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文:三井能力開発研究所・圓岡太治
日本の“国民食”
日本の国民食とも言えるカレーライス。インドからイギリスを経て日本に伝わった料理ですが、日本独自の発展を遂げ、いまでは発祥地のカレーとは別物と言っても過言ではありません。「ジャパニーズ・カレー」として逆にインドでも食べられるようになっているという話もあります。このような人気料理・カレーには記念日があり、1月22日が「カレーの日」とされています。このカレーの日の由来について、次のうち正しいものはどれでしょうか。
(1)カレーは幕末・明治初期の開国にともない日本に伝わったが、最初に伝来したとされる横浜港(1859年開港)の開港記念日
(2)日本でカレーが普及したのは、明治時代に海軍がカレーを兵食として採用したのがルーツで、1884年に海軍で初めてカレーが提供された日
(3)子どもたちに好まれていたカレーを、全国の学校給食で1982年1月22日に一斉に提供しようと、呼びかけたことにちなむ
全日本カレー工業協同組合が制定
答えは(3)で、カレーの日は、子どもたちに好まれていたカレーを、全国の学校給食で1982年1月22日に一斉に提供しようと、呼びかけたことにちなみます。
学校給食は今から130年以上も前の明治22年(1889年)に始まり、各地に広がっていきました。その後戦争の影響などによって中断されましたが、昭和21年に米国のLARA(アジア救済公認団体)から物資の寄贈を受け、翌年1月から再開されました。昭和22年12月24日にLARAからの給食用物資の贈呈式が行われ、それ以来この日が「学校給食感謝の日」と定められました。昭和25年度からは、学校給食による教育効果を促進する観点から、冬季休業と重ならない1月24日から1月30日までの1週間が「学校給食週間」とされました(参考[1])。
1982年1月22日、学校給食再開35周年を記念して、多くの学校でカレーライスが提供されました。これは社団法人全国学校栄養士協議会が企画したもので、カレーライスが選ばれたのは、小中学生へのアンケートでもっとも人気が高かったからだそうです。この出来事にちなんで、全日本カレー工業協同組合が1月22日を「カレーの日」と定めました
“海軍カレー”として人気に
カレー料理は、17世紀にインドを植民地としていたイギリスに伝えられ、王室料理にも加えられました。香辛料を配合して一からカレーを作るのは手間がかかったため、当初は上流階級向けの高級料理でしたが、18世紀末にCross&Black well社によりカレー粉が市販されると、一般家庭にも広がるようになり、カレー料理は一時欧州諸国で流行したそうです(参考[2])。
カレーが日本に伝わったのは、鎖国が終わった幕末から明治初期の頃と考えられています。日本では米飯と結びつき、「ライスカレー」として広まりました。伝来地は、当時開港された北海道や神戸など諸説ありますが、1859(安政6)年に開港された横浜というのが通説となっています。なお、横浜の開港記念日である6月2日は、「カレー記念日」という記念日にもなっています。これは2001年にオープンし2007年に閉館した「横濱カレーミュージアム」というフードテーマパークが制定したもので、同テーマパークが運営されていた当時は、カレーにまつわる趣向を凝らしたイベントが盛大に開催されることもありました。
明治末期には、ライスカレーのほかカレーうどんやカレーそばが食堂のメニューに出るようになり、次第に大衆化されましたが、国内に広く浸透した契機の一つとして、軍隊食に採用されたことが大きいとの説が有力です。
大日本帝国海軍では、1884年に脚気対策としてイギリス海軍の兵食を参考に給食が洋食化されました。イギリスではシチューが好んで食べられますが、日持ちしない牛乳が必要なため、長期間乗船する船員たちはなかなか食べる機会がありませんでした。そこで、シチューと同じ具を使い、日持ちする香辛料を使って作ったのがイギリス流のカレーで、イギリス海軍の定番食となっていたそうです。1889年(明治22年)の海軍省からの通達では、五等厨夫が学ぶ科目の一つに「ライスカレー」があげられています。
また、文献として残っている最も古いレシピは、1908年(明治41年)に発行された『海軍割烹術参考書』で、「カレイライス」として載っています。カレーは一度に大量に作るのが容易で、栄養バランスも良く、後片付けも簡単、さらにおいしくて人気が高いため、兵食としてうってつけのメニューなのです。
現在、海上自衛隊では、毎週金曜日の昼食にカレーライスを食べる慣習があります。以前は土曜の午後が休みだったため、片付けを簡単に済ませられるカレーを土曜日の昼食に食べていたそうです。週休二日制が普及してからは、週末は金曜日という観念が定着し、金曜日の昼食にカレーを食べる鑑定部隊が増え、「金曜日はカレーの日」が定着したそうです。この慣習がマスメディア等に広く紹介された結果、「よこすか海軍カレー」を皮切りに、「呉海自カレー」、「大湊海自カレー」など、海上自衛隊カレーを活用した企画が各地で登場しています(参考[4])。
(参考)
[1] 全国学校給食週間について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/1299359.htm
[2] カレーとは?(全日本カレー工業協同組合)
http://www.curry.or.jp/whats/index.html
[3] 今年も盛大に「カレー記念日」(日本食糧新聞電子版)
https://news.nissyoku.co.jp/restaurant/grs-253-0034
[4] 海上自衛隊 カレーの秘密|海上自衛隊レシピ(海上自衛隊)
https://www.mod.go.jp/msdf/kanmeshi/tip2.html