「風にさらわれて」南佳孝の楽曲をアレンジ
極私的坂本龍一の3曲その2は1980年の南佳孝のアルバム『MONTAGE』からシングル カットされた「風にさらわれて」。坂本龍一は「モンロー・ウォーク」など数多く南佳孝の楽曲をアレンジしている。
ギターに元はっぴいえんどの鈴木茂、キーボードに松任谷正隆など日本の代表的なスタジオ・ミュージシャンが参加した「風にさらわれて」に於いて坂本龍一はストリングスとブラス・セクションのアレンジを担当した。スローバラッドのこの曲に於ける坂本龍一のストリングス・アレンジは白眉だ。隠れた名曲のひとつなのでぜひ一度聴いて頂きたい。
2023年1月17日、坂本龍一の誕生日にリリースされたラスト・アルバム『12』
極私的3曲その3は生前のラスト・アルバム『12』の全曲を推したい。この作品は闘病の合い間、少し心が音楽に向き始めた頃、サウンド・スケッチのように作られたアルバムだ。期間は2021年3月10日から2022年4月4 日で制作されている。1曲毎の曲名はなく、例えば「20220404」といったように楽曲がクレジットされている。
よく“生への執着”といったことが言われるが、『12』の楽曲の中からは、そういったことは伝わってこない。ただ淡淡と今ある生を見つめた、そんな音楽だ。死をも超越した世界というのが存在し、そこから坂本龍一が語りかけてくる、そんな楽曲群だ。最後の最後まで音楽と社会運動に命を捧げた坂本龍一ならではのラスト・アルバムだ。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。