SNSで最新情報をチェック

仏像が塀を飛び越えて食べにくる美味

なかでも皇帝が好んだ朝食時のスープは、この世で手に入れられる最高の美味と珍味から作られた。

まず、広州の江瑶柱(貝柱)、金満鮑(干鮑)、海参(干しナマコ)、フカ翅、世界一おいしいハムといわれる金華火腿、これらに加えるのが《幻の不老長寿薬》、中国の吉林省で産する〔吉林人参〕だ。

長白山に自生する100年ものなら、いま香港で1本2~300万円はする。運よく200年モノでも1本探し当てれば、まず一生働かなくても食べていかれるというので、長白山には現在でも一発屋が横行しているといわれる。

以上の材料をスープで煮込むわけだが、そのスープはさきに紹介した〔禾花雀〕と、6月の中旬に四川省の池で捕まえる〔フナの頰肉〕の干したものから作られる。フナの頰肉とは、これまた何という繊細、精緻!

こうして出来上がった史上最高のコンソメを、成帝は寝起きに、紅絹の玉座でゆるゆるとすすりながら、腰のあたりにどんよりと残っている甘い疲れに時折身じろぎしつつ、早くも今宵はどの娘を召し上げようかと、ものうげにあたりを見回していたのではあるまいか。

このスープには〔仏跳牆〕という名前がつけられている。あんまり旨そうなので、たまりかねた仏像が寺の塀をとび越えてきたというわけだ。

話かわって成帝は、数多い側室の中から趙飛燕を正妻に迎えているが、これは彼女の美貌もさることながら、象牙のようになめらかで、ミルク色に淡く輝く肌に惚れ込んだものだといわれている。

趙飛燕は7歳のときから海燕の巣のスープとナツメの実だけで成長したと伝えられるから、宝クジでも当てて、実験してみるのもおもしろいかもしれない。

(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)

『美食・大食家びっくり事典』夏坂健(講談社)

夏坂健

1936(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

icon-gallery
icon-prev 1 2
関連記事
あなたにおすすめ

関連キーワード

この記事のライター

おとなの週末Web編集部 今井
おとなの週末Web編集部 今井

おとなの週末Web編集部 今井

最新刊

全店実食調査でお届けするグルメ情報誌「おとなの週末」。11月15日発売の12月号は「町中華」を大特集…