酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?海あり山ありの自然豊かな京丹後で、人情に溢れる女性杜氏が心を込めて醸す日本酒たち。醸さ…
画像ギャラリー酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?海あり山ありの自然豊かな京丹後で、人情に溢れる女性杜氏が心を込めて醸す日本酒たち。醸される地で獲れる海鮮とあわせ、その懐深い味を楽しんでいた。
京都府『向井酒造(株)』
【向井久仁子氏】
1975年、京都府生まれ。東京農業大学醸造学科卒業後、実家の向井酒造へ。蔵に入って2年目に杜氏に就任し、同年に古代米を使った「伊根満開」を商品化。弟で社長の崇仁氏と共に山廃、生もと、神亀流速醸の3本を柱に酒造りを続ける。
夏場のお楽しみは姉弟での外飲み
「台所に常備しているうちの酒で栓が開いてるのを、片っ端から燗酒で酌む」と杜氏は言った。「京の春」を醸す向井酒造の杜氏・向井久仁子さんだ。丹後半島の突端、伊根町にある同蔵は、「日本で一番、海に近い酒蔵」と言われている。それもそのはず、蔵があるのは、1階が舟のガレージ、2階が住居の伝統的建物「舟屋」が約230軒建ち並ぶ美観地区。
海に近いというか、いつも穏やかな湾内の海面に迫り出すように建っている。「地元民はなんも言われんからずっと遊泳禁止って知らんくて、昔はいつも家の前で泳いどりました。舟屋に漁業権が付いてるんで、今はサザエ採ったり。仕事が終わった夕方には釣りもしますね。メバル、イカ、念仏鯛……うちの蔵人はみんな釣り好きです」
毎日へとへとになる造りの期間は家での晩酌が多いが、初夏から秋は、ひと回り離れた弟で社長の向井崇仁さんと外で飲むことが多い。お気に入りは隣町にある居酒屋。店主の自家製野菜と新鮮な地魚が目当てだ。酒を持ち込ませてもらい、付き合いの深い神亀酒造特製の燗付け器で温めて愉しむ。
「うちの酒は海のものと合うとよくゆわれます。山の水で仕込んでるんですけどね、不思議と海のミネラルを感じるらしくて。京の春の特別純米の熱燗と、このアコウの刺身なんか最高の組み合わせ」向井さんが杜氏1年目の23歳で造ったロングセラー「伊根満開」は、古代米の紫黒米を使った鮮やかな赤色の日本酒。こちらは酒そのものを味わうなら70℃近くに、肴があるなら50℃くらいに付けるのが好みだという。
「温めると、ほどよい苦味とかいろんな味が出て、いい食中酒になります。近所の蒲入(かまにゅう)漁港で作られてるイワシの桜干し(味醂干し)とか、ミョウガとかの薬味を効かせたアジのなめろうなんか相性抜群だと思います。崇仁は?」そう言って弟に注ぐと、「あと、たまに漁師のおっちゃんからもらえる白イカの小さいんの沖漬けにしたやつも合うよね」と応じた。魚と燗酒を堪能したら、布袋寅泰を歌いにスナックへ河岸を変えるのが定番。ふたりの夜は長い。
『旬菜鮮肴 ふかたべ』
地魚の刺身や天ぷらに自家製の野菜をふんだんに使った料理。そこに京都をはじめとした地酒を楽しませてくれる居酒屋。カウンターもあり、ひとりでの利用も◎
[住所]京都府京丹後市峰山町冨貴屋35-7-1
[電話]090-9880-5088
[営業時間]18時〜23時
[休日]不定休
[交通]京都丹後鉄道峰山駅から徒歩15分
『向井酒造(株)』@京都府
1754年創業。舟屋が建ち並ぶ国指定重要伝統的建造物群保存地区で年間500石を醸す小さな蔵。代表的銘柄「京の春」は生もとらしいコクがある特別純米の他、超辛口の「豊漁」など多彩。赤い酒「伊根満開」も定評がある。
【京の春 純米】
【豊漁 辛口純米】
【伊根満開】
撮影/松村隆史、取材/渡辺高
※2023年8月号発売時点の情報です。
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