MHDシングルモルトアンバサダーとともにテイスティング タリスカー11年を今回、MHDシングルモルトアンバサダーのロバート(ボブ)・ストックウェルさんとともに試飲することができた。同時に、タリスカー10年、タリスカースト…
画像ギャラリースコットランド・スカイ島で生み出されるタリスカーのウイスキーには、なんとも心惹かれるキャッチフレーズがある。ボトルのラベルに記載された文字は「MADE BY THE SEA」。“海に育まれた”という意味だ。そのタリスカーから、希少な原酒をボトリングした「タリスカー11年」が8月23日、数量限定で発売された。香りは、味は…。その魅力を紹介する。
『MADE BY THE SEA』スカイ島の自然を体現したシングルモルト
「霧の島」(The isle of mist)とも呼ばれるスコットランドのスカイ島。この美しい自然に恵まれた島の入り江に、タリスカー蒸留所はある。“海に育まれた”といわれる所以(ゆえん)だ。
「その特徴は、まるで海の潮風を味わっているかのような風味と力強い黒胡椒の香味。タリスカーのすべてのラベルに書かれている『MADE BY THE SEA』は、スカイ島の厳しくも美しい自然、海への深い感謝とともに、スカイ島の自然をまさに体現したシングルモルトであることを示す言葉」(タリスカーの資料より)
個人的なことを明かすと、タリスカーのウイスキーは代表的銘柄の「タリスカー10年」をはじめ20年近く愛飲し、自宅にも複数種類のボトルを常に置いているが、「潮風を味わっているかのような風味」という表現はたしかにぴったりだ。そして力強い。
幻想的な美しさを持つ、深海の光り輝く生物
数量限定で発売されたタリスカー11年は、どんな味がするのだろうか。
タリスカーを取り扱う「MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社」(MHD、本社・東京都千代田区神田神保町)によると、タリスカー11年は、スコットランドで最も多くの蒸留所を所有するディアジオ社が希少な原酒を年に一度、数量限定でボトリングするシリーズ「ディアジオ スペシャルリリース」のひとつ。前年のコンセプトを継承した「語られざる伝説 第二章」というテーマで、ボトルには“伝説上の生物”が描かれている。
伝説によると、「タリスカーが望むスカイ島の入り江ロッホ・ハーポートの海が激しく荒れた時、深海から光り輝く生物が現れ、魅惑的な光で深海の暗闇を照らしたといいます。この強烈な光は、嵐が巻き起こした潮流に乗って運ばれ、タリスカー蒸留所を明るく照らしました」(タリスカーの資料より)。当時は、この生き物のことがよくわからなかったというが、要はクラゲだ。ボトルに表現されたクラゲの絵は幻想的で、この限定品の持つ深淵な魅力を醸し出している。
MHDシングルモルトアンバサダーとともにテイスティング
タリスカー11年を今回、MHDシングルモルトアンバサダーのロバート(ボブ)・ストックウェルさんとともに試飲することができた。同時に、タリスカー10年、タリスカーストームも。タリスカー蒸留所などで働いた経験を持ち、製法を含めてシングルモルトを熟知するボブさんが、タリスカーの歴史をふまえながら、タリスカー11年の特徴を流暢な日本語で説明していく。
「ディアジオスペシャルリリース」は、カスクストレングス(加水せず樽出しそのままのアルコール度数)で提供されるのが特徴だ。「タリスカーの普段のものよりも、ちょっと遊びの入ったものをやってきています。必ずカスクストレングスで出されるため、自分の好きなアルコール度数に調整できるのも利点のひとつです」(ボブさん)
タリスカーの通常のボトルは、10年も18年もストームも、アルコール度数は「45.8%」。しかし、タリスカー11年は、カスクストレングスのため、「55.1%」と高い。ボブさんが言うように、水を加えて自分好みに変えられるのがうれしい。ただ、個人的には、カスクストレングスもストレートで飲むのが好きだ。実際、タリスカー11年は、ストレートのままでもなめらかで度数の高さをそれほど意識させない。
タリスカー10年、タリスカーストームと飲み比べ
テイスティングは、まずはタリスカー10年から。自宅には旧瓶があるが、まだこの新瓶はない(試飲後に購入)。ボブさんが、グラスを嗅いで感想を口にする。「ちょっとした磯の香り。ここ千代田区ですけど、海辺の近くにいるのかな(笑)と思っちゃうぐらいの海の香りがしますね。奥の方にフルーティーさもあったり、スモーキーさもあったりとか」。たしかに、その通り。旧瓶と比べると、やや甘い印象だ。
香りを楽しんだあと、ボブさんの「スランジバー!」という乾杯の掛け声とともに、実際にストレートで飲んでみる。スコットランドなどで使われているゲール語で「あなたの健康を祝して」という意味だ。
「いろんなテイスティングコメントがあると思うのですが、ウイスキーメーカーとして一番うれしいのは、『うん、うまい』という言葉。タリスカーは、一番歴史のあるスカイ島のシングルモルトです。舌の上で爆発するようなスパイシーさ、黒胡椒のようなスパイシーさがありますね」(ボブさん)。もちろん、タリスカー10年の特徴とも言うべきピート臭、スモーキーさも伝わってくる。うん、うまい。
「輝きのある色」「抑えられたスモーク感」「バターっぽさ」
テイスティングでは、黒胡椒をかけたスパイシーなハイボールも。潮の香りや黒胡椒の風味を際立たせた荒々しいストームを味わったあと、いよいよ、タリスカー11年へ。
まずは、ストレートで。アルコール度数が高いカスクストレングスなので、あとは、加水する飲み方だ。
ボブさんが、グラスを手にして、次々に感想を口にしていく。
「今回の11年は、今までに(タリスカーの中で)やったことがないことをするということで、普通のタリスカ―、10年やストームは、ミディアムピートの大麦麦芽を使うんですけど、今回はあえてライトピート。具体的なppmの数値は明かされていませんが、ライトピートというと10ppm以下なので、恐らく5~10ppmの間かなと」
ウイスキーの製造過程で、ピート(泥炭)を焼いて麦芽を乾燥させる際に煙で独特の香りがつく。「ppm」は、いわばピートでの乾燥の程度を示すフェノール値を表す。香りを構成する要因は複雑で、単純には言い切れない部分もあるが、フェノール値が高いと一般的にスモーキーフレーバーをより感じるウイスキーになるとされる。
「一番のポイントは、光、色ですね。輝きのある色がすばらしいです。あと、通常のタリスカーですと、セカンドフィルとかリフィル樽にアメリカンオーク樽を使うことが多いんですけど、ファーストフィルのアメリカンオーク樽を使いながら、シーズニングのワイン樽も使っているので、今までにないタリスカーになっている」
「香り、本当におもしろいですね。ピーティーさ、スモーク感がちょっと抑えられている」
「アメリカンオーク樽からの甘さもありながら、オールドボトル特有のというか、貯蔵庫の中のような、いい意味でちょっとかび臭い感じのところもある。特に、ワイン樽で、こういう風味がよく出てくるんですね」
「一口飲んでみましょう。バターっぽさもあって、甘さもあります。ライトピートなので、スモーキーなものが初めての人でも、いいかもしれませんね」
しっかり残るバター感
グラスをかざして色を確かめる。ウイスキーの代表的な色合いの琥珀色というよりは、きれいなゴールド。ボブさんの言うように、美しく輝いている。香りを嗅ぎ、口に含んだ。
ほのかな潮の香りと軽いスパイシー感に加え、ほどよいスモーキーさ。タリスカーらしさが、伝わってくる。ただ、従来のタリスカー10年などと違う点は、ボブさんが飲んで最初に言ったように、「バターっぽさ」だろう。舌の上に、ウイスキーの“旨味”が広がってくる。とてもなめらかだ。
驚いたのは、ほぼ一対一で加水しても、バター感がしっかり残ったことだ。まろやかさが増して、これも、うまい。
「カスクストレングスは、(水を加えて度数を調整することで)自分の好みにあわせることができる。飲み手が、(ウイスキーの)個性を出すことができる。水を入れて、自分にとってはどれが一番美味しくなるのかを探るのが楽しい」
ストレートでもよし、そして水を加えて自分だけの味に。ボブさんが言うように、ウイスキーの楽しみが広がる一本だ。
文・写真/堀晃和
■「タリスカー 11年」商品概要
商品名:タリスカー 11年
発売日:2023年8月23日(水)から順次展開
容量:700ml
価格: 1万5000円(税別)
アルコール度数:55.1%
原産地:スコットランド・スカイ島、カーボスト
熟成:11年熟成/アメリカンオーク樽のファーストフィル、アメリカンオーク樽のリフィル、ワインシーズニング樽
【テイスティングノート】
色:深く輝くゴールド
香り:潮風の香りと軽いスパイスの刺激。
乾いた海藻を燃やす浜辺の焚き火。麻、海潮、煙たいエンジンのような奥深さが調和している。
ボディ:ミディアム
味わい:滑らかでオイリーな舌触りと、全体に素晴らしい甘み。スモーキーでスパイシー、独特の果実味。
煙と海霧を通して見える果樹園の中心に絶妙な塩気。唐辛子の刺激。加水すると、フルーティな甘みと塩気が引き立つ。
フィニッシュ:ややスモーキーで、温かみのあるスパイスが長く残る。