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熱く香り高い紅茶が、母とのあうんの呼吸で注がれる

戦争が終わって数年たったある日のこと、河上綾さんが富美子さんからお茶に招待された。河上さんは、幼いころの美智子さまのピアノの先生である。

午後も遅めの4時、香りのよい紅茶とホームメイドのクッキーでおもてなしをされたのだ。友人をお茶に招く習慣は、もともとヨーロッパのものである。新婚時代をヨーロッパで過ごした富美子さんならではのお招きだった。

「ごきげんよう。先生、ようこそおいでくださいました」

そう言って河上さんを迎えられた美智子さまは、すらりとした聖心女子学院高等科の生徒になられていた。戦火を避けるための疎開を挟んで5年ぶりの再会である。河上さんは、雙葉小学校のセーラー服を着て、ランドセルを背負ってレッスンに通っていた少女が、しばらく見ない間に美しいお嬢さまに成長されたことに感慨もひとしおだったという。

噴水と花壇

さらに目を見張ったのは、当時15歳の美智子さまと9歳の妹の恵美子さんのお茶のおもてなしの見事さだった。

富美子さんは河上さんと向かい合って座り、しばらくぶりの思い出話に花を咲かせている。美智子さまに一言の指図をすることもない。美智子さまはときどきチラリと母を見る。母は目でうなずく。

「そろそろお茶をお注ぎしていいかしら? このクッキーはどこへ?」

それだけなのだ。母と娘たちは無言のうちに気持ちを察し合って、熱い紅茶が淹れられる。部屋は心地よい香りに包まれる。お客さまが気持ちよく過ごせるよう、とどこおりなく給仕が進められていく。

河上さんは、その家庭のしつけと美智子さまの成長に感嘆したという。お茶の後には、美智子さまと妹の恵美子さんが一緒にショパンを弾いて、平和を楽しむひとときを過ごした。

のちに美智子さまが皇太子妃に決まったとき、富美子さんは教育方針についてこう語っている。

「(子どもたちは)4人とも、厳しく、甘やかさないでしつけました。自分のことは自分で判断して納得がいくまで考えさせたあと、初めて行動するようにさせました。ぜいたくは決してさせませんでした。ただ、勉強で学校のほかに英語を習いに行くとか、本などは十分与えてきました」

このような母のしつけのもとに、のちの美智子さまの人の気持ちを汲み取るたたずまいが育っていかれたのだろう。(連載「天皇家の食卓」第10回)

文・写真/高木香織
イラスト/片塩広子

参考文献/『美智子皇后 ともしびの旅路』(渡辺みどり著、小学館)、『美智子皇后の「いのちの旅」渡辺みどり著、文春文庫』

高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、カレンダー『永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

片塩広子
かたしお・ひろこ。日本画家・イラストレーター。早稲田大学、桑沢デザイン研究所卒業。院展に3度入選。書籍のカバー画、雑誌の挿画などを数多く手掛ける。挿画に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)ほか、著書(イラスト・文)に『私学の校舎散歩』(みくに出版)。

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高木 香織
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