1969年4月18日、上皇陛下(当時は皇太子さま)と美智子さまの間に、初めての内親王である紀宮さま(今の黒田清子さん)がご誕生された。東宮御所は、3人のお子さまたちのにぎやかな笑い声に包まれるようになった。東宮御所にご自分のキッチンを持たれた美智子さまは、愛娘の清子さまに手料理を教えられたという。清子さまがやがて結婚されて一般人になることを想定して、家事を教えられたのだ。みるみる料理の腕をあげた清子さまの得意料理は「手作りクッキー」であった。今回は、おじいさまの昭和天皇にも差し上げた手料理の物語である。
ご自分のキッチンで
浩宮さま(今の天皇陛下)、礼宮さま(今の秋篠宮さま)に加え、紀宮さまがお生まれになり、3人のお子さまに囲まれる生活が始まった。美智子さまはどのような子育てを心掛けたのだろうか。
浩宮さまが4歳のお誕生日を前にしての記者会見で、美智子さまは教育方針についてこう話された。
「静かに、すこやかに育てたい。一般と何ら変わらない普通のものを身に付けた上で、皇室にふさわしい特殊なものも自然と備わるようにしていきたいと思います」
普通の家庭と同じように――。そのために美智子さまは前例のないことを実行された。ご自分のキッチンを持たれたのである。天皇家では、調理は大膳課が行っている。美智子さまは、大膳課と協力しながら、ご自分のキッチンで作った料理を夫と子どもたちに振舞ったのである。
そのキッチンで、美智子さまは清子さまに料理を教えられた。女性皇族は、皇室以外の人と結婚すると、一般人となる。美智子さまは末っ子の清子さまをお育てになる時に、常にそれを念頭においていた。
民間から天皇家に嫁いだ美智子さまは、御所の生活が一般の生活とかけ離れていることをよくご存じだった。だからこそ、逆の立場になったときに困らないように、家庭の実務的なことを教えられたのである。
それは、美智子さまの母の正田富美子さんの「ハウスキーピングができるのは、人としてのたしなみ」という教育方針によるものでもあった。美智子さまが母からしつけられたのと同じように、清子さまにもハウスキーピングができる自立した女性に育ってほしいとお考えになったのだろう。