1959年4月10日、皇太子明仁殿下(今の上皇陛下)と美智子さまはご成婚された。初めて民間から皇室に嫁ぐ娘を送り出す日の朝、最後に家族が囲んだお祝いの食事は「大鯛の酒蒸し」だったという。嫁に出すのは淋しいけれど、めでたいこと――。そんな家族の想いが感じられる食卓である。そんなあたたかい家族の想いを受け止めて、美智子さんは家族一人ひとりに言葉を書き残したという。今回は、明日への旅立ちの食卓をめぐる物語である。
淋しがる家族への思いを託した手紙
「娘を嫁に出すのは、やはり淋しいものですよ」
ご婚約が決まってから、美智子さんの父・正田英三郎さんは、ラジオの対談で素直な心のうちを語っている。
ご成婚の前夜、正田家では美智子さんを囲んでお別れの食事をした。長い間大切に育ててきた娘を嫁に出す両親の淋しさに、美智子さんは気づいていた。そんな両親の気持ちを慮り、美智子さんはつとめて明るく振舞った。食事をしている部屋からは、美智子さんの明るい笑い声ばかりが聞こえてきたという。
テーブルには、ご両親をはじめきょうだいそれぞれの席に、美智子さんが用意した白い封筒が置かれていた。家族への想いを手紙に託したのだ。見知らぬ皇室に入る美智子さんの、覚悟と感謝の想いが綴られていたのだろう。