新横浜ラーメン博物館・あの銘店をもう一度

初代店主の記憶喪失で失われたラーメンレシピ 北海道・旭川ラーメンの老舗「蜂屋」はなぜ今も名店であり続けるのか

ラーメン界のエジソン!蜂屋が生み出した様々な功績 ★誰もが真似できなかった「ダブルスープ」蜂屋のスープは、鯵(あじ)の丸干しでとった魚介スープと、とんこつスープを別々にとって、最後にブレンドする、いわゆる「ダブルスープ」…

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新横浜ラーメン博物館(横浜市)は、30周年を迎える2024年へ向けた取り組みとして、過去に出店した約40店舗が2年間かけて3週間のリレー形式で出店するプロジェクト「あの銘店をもう一度」を2022年7月1日から始めています。このプロジェクトにあわせ、店舗を紹介する記事の連載も同時に進行中。新横浜ラーメン博物館の協力を得て、「おとなの週末Web」でも掲載します。

“クセはあるけどクセになる”が代名詞、戦後まもなく創業

第24弾は“クセはあるけどクセになる”が代名詞の旭川ラーメンの老舗「蜂屋」さんです。

【あの銘店をもう一度・第24弾・「蜂屋」】
出店期間:2023年10月31日(火)~2023年11月20日(月)
     ※かもめ食堂は4週間の期間限定出店です
出店場所:横浜市港北区新横浜2-14-21 
     新横浜ラーメン博物館地下1階
     ※第22弾「魁龍博多本店」の場所
営業時間:新横浜ラーメン博物館の営業に準じる

・過去のラー博出店期間
1999年11月27日~2009年8月30日

過去のラー博出店時の店舗

岩岡洋志・新横浜ラーメン博物館館長のコメント「蜂屋さんほど個性的なラーメンはなかった」

蜂屋さんとの出会いは当館がオープンする4年前、私が全国を食べ歩き始めた頃で、札幌で4〜5杯食べた後、旭川に入りました。もう食べられないと思いつつ蜂屋さんのラーメンを食べたのですが、衝撃を受け、あっという間に食べ終わりました。

全国には色々特徴のあるラーメンはありますが、蜂屋さんほど個性的なラーメンはなかったと言えます。ご出店いただいた時のキャッチコピーは「クセはあるけどクセになる」。蜂屋さんの特徴を表わした名コピーです。

蜂屋さんのラーメンに惚れこんだ私は、何度も旭川を訪れました。二代目の加藤直純さんは、興味を持っていただいたのですが、前例のないプロジェクトということもあり、家族や親せきからの反対もあって、1994年の創業時の出店はかないませんでした。

その後も幾度となく旭川を訪れていた中、1998年に大きな動きがありました。最初の誘致をしていた90年代前半にまだ小学生だった現三代目の信晶君が「やってみたい!」と言ってくれたのです。しかも大学への進学が決まっていたのですが、それも断り、家族全員で新横浜に移り住んでくれるというのです。嬉しかったのと同時に、人生を変える決断へのプレッシャーもありました。

余談ですが、私が誘致交渉に行くたびに直純さんが連れて行ってくれた「独酌三四郎」という居酒屋がありました。私はこのお店が大好きで、実は94年のオープン時にこの居酒屋をモチーフとした「居残り屋雄蔵(現在は閉店)」というお店を新横浜ラーメン博物館の館内に作ったのです。

初めて食べる方も食べたことがある方も、是非この個性的なラーメンを味わっていただきたいです。

「蜂屋」のラーメン

蜂蜜を使ったアイスクリーム店が1年後はラーメン店に

戦後の混沌期、初代・加藤枝直さんは当時としては珍しい蜂蜜を使ったアイスクリーム店を昭和21年に開業。

創業者の加藤枝直さんと奥様

屋号の「蜂屋」はその蜂蜜の「蜂」に由来しています。そして、アイスクリーム店を営業する傍ら、近所の日本蕎麦屋店から「中華そばという食べ物がある」ことを聞きつけました。好奇心の強い枝直氏は全くの独学で特徴的な風味を持つラーメンを作り上げ、昭和22年12月8日に、アイスクリーム店「蜂屋」から、ラーメン店として生まれ変わりました。

昭和22年当時の店舗。看板にソフトクリームの文字が

「巨人・大鵬・卵焼き」ではない!昭和30年代、旭川の流行語は「祭・映画・蜂屋」

そしてそのラーメンは爆発的な人気を呼び、昭和30年代に入ると「休日には映画を見てから蜂屋でラーメンを食べる」というスタイルが、旭川及び周辺町村の「休日の過ごし方」として定着するほどまでになりました。

当時旭川にあった映画館のチラシ

昭和36年になると「巨人・大鵬・卵焼き」が流行語となりましたが、その頃旭川では「祭・映画・蜂屋」という言葉が生まれ、一種の流行語にまでなるほど蜂屋の人気は凄かったのです。その一例として、蜂屋主催の招待旅行が催されるなど、旭川においてその人気は不動の存在であることを物語っています。

タイトルには「第4回恒例 ラーメン蜂屋 登別温泉御招待抽選会」と書かれています

初代店主が交通事故に、昭和47年に二代目がお店へ

こうして順風満帆だった蜂屋ですが、突然大きな事件が起きます。それは東京オリンピックが開催された昭和39年。初代・枝直さんが交通事故にあい、記憶喪失となったのです。

初代のみが知る一部のレシピは記憶喪失によって闇に包まれてしまいます。この当時二代目・加藤直純さんはまだ15歳でした。

蜂屋二代目の加藤直純さん(昭和50年撮影)

直純さんは13歳から蜂屋の手伝いをはじめ、大学時代は旭川を離れ、卒業した昭和47年に蜂屋で正式に働くこととなりました。

直純さん曰く「私は父のように何か新しいことを生み出すというよりも、ひたすら父が築き上げた歴史とお客様を守ってきました。父が偉大だったこともあり、守るということも本当に大変でした。おかげさまで父の代から衰退することもなく、常に多くのお客様にお越しいただけたことは自分の自信にもつながりました」とのこと。

今もなお繁盛を続けているのは、二代目が初代の精神を受け継ぎ、絶え間ない苦労・挑戦によって成しえたものだと思います。

ラー博へ1999年に出店、誘致交渉は91年から

蜂屋さんがラー博に出店したのは1999年。しかし、私たちは1991年に初めて蜂屋さんを訪れ、それまでラーメンに抱いていた概念を打ち破る衝撃を受け、誘致交渉を始めました。

設立趣旨にはご理解いただいたものの、人員面や特殊厨房設備などの問題もあり、幾度となく通うも1994年の開業時の出店はかないませんでした。

その後も足しげく通う中、91年の交渉時にはまだ小学生だった長男の信晶さんが、ちょうど高校を卒業して大学に進学するタイミングに訪れた際、信晶さんが「ラー博でやってみたい」という想いから、とんとん拍子で出店が実現しました。

二代目直純さん(写真左)と信晶さん(写真右)2005年撮影

蜂屋さんが出店するタイミングで、94年の開業時から営業していた居酒屋「居残りや雄蔵」を閉め、ラーメン店が8店舗から9店舗になりました。誘致交渉8年の末、念願の出店となりました。

ラーメン界のエジソン!蜂屋が生み出した様々な功績

「蜂屋」のラーメン

誰もが真似できなかった「ダブルスープ」
蜂屋のスープは、鯵(あじ)の丸干しでとった魚介スープと、とんこつスープを別々にとって、最後にブレンドする、いわゆる「ダブルスープ」。

鯵の丸干し

今ではポピュラーとなっている「ダブルスープ」を半世紀以上も前から独自で開発したのです。とんこつは一度冷水で冷やして余分な油を取り除く。トンコツスープと魚介スープでは美味しく仕上げる時間帯が異なるため、別々にとってブレンドするという手法を考えました。この手法はあまりにも手間と技術を要するため普及する事はなく「蜂屋」の特徴の一つになりました。

人々を魅了した「焦がしラード」
旭川ラーメンの特徴の1つである、どんぶり一面を覆う「ラード」。しかし、蜂屋のラードは他のお店とは違い、独特な風味を持ったもので、蜂屋の代名詞である「クセはあるけどクセになる」と言わせた蜂屋一番の特徴となっています。

どんぶり一面を覆う焦がしラード

その焦がしラードの作り方は、寸胴鍋に良質なラードと豚の脂身、鰹節などの節類を加え焦がします。最後にそのラードをこして完成。ラードだけだと、表面の油が分離し、香りもよくないということで先代がいろいろ試行錯誤した結果、この焦がしラードが誕生しました。

旭川ラーメンのスタイルを作り上げた「低加水麺」
旭川ラーメンの一番の特徴となるのがこの「低加水麺」。※低加水とは麺に加える水の量が少ないという意味

低加水のちぢれ麺

先代の加藤枝直氏と兄にあたる加藤熊彦さんによって作り上げられたこの麺は、麺に加える水の量が少ないため、スープをよく吸って麺とスープとの一体感が味わえます。その後、この麺は兄の会社「加藤ラーメン」によって、旭川市内のラーメン店に普及し、「低加水麺」は旭川のスタイルを象徴するものとなりました。

「蜂屋」は旭川で2店舗が営業中

現在蜂屋は旭川市内に2店舗構えております。

「蜂屋 五条創業店」
住所:北海道旭川市五条通7丁目右6
電話:0166-22-3343
営業:10時半~19時50分(L.O.)
木曜定休日

「蜂屋 五条創業店」

「蜂屋 三条店」
住所:北海道旭川市三条通15丁目左8
電話:0166-23-3729
営業:10時~15時20分
水曜日定休

「蜂屋 三条店」

「蜂屋」のラーメンがラー博で食べられるのは実に14年ぶり。旭川の老舗の味を、この機会に是非お召し上がりください!

出店期間は2023年10月31日(火)~11月20日(月)です。皆様のお越しをお待ちしております。

『新横浜ラーメン博物館』の情報

住所:横浜市港北区新横浜2-14-21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時~21時、土日祝10時半~21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人450円、小・中・高校生・シニア(65歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円

※協力:新横浜ラーメン博物館
https://www.raumen.co.jp/

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