青山ブックセンターの誘致で「農」と「知」を結びつける
最近では、道の駅の敷地内に別棟で書店があったりもしますが、こちらはマルシェの中、20メートルにわたって並べられた柏市のふるさと納税謝礼品や千葉県の名産品と一緒のレイアウトが斬新です。
駅長の木村美穂さんによると、ABCの道の駅への出店は「全国初なのか断言できませんが、珍しいのではないでしょうか」とのこと。
ABCが置かれた「知産知消マルシェ」のコンセプトである「商品を購入するだけでなく、(商品になるまでの)背景を知り、学びや気づきを得てほしい」に合わせ、厳選本を取り扱うコーナーを設けたと木村駅長は話します。
さらに「しょうなん」のリニューアルに携わったクリエイティブ・ディレクターの鎌田順也氏は、公式HPの中で、「『知産知消マルシェ』と名づけた直売所は、地域の食を農家の想いや地域の歴史など、様々なストーリーと一緒に楽しんでもらいたいという考えから、『地』を『知』に置き換え、青山ブックセンターを誘致するなどして、農と知を結びつける試みを行いました」と述べています。
ABC支店は「お客さんから大変好評で、『自分では見つけることができないようなセンスの良い、通な選書』」(木村駅長)との声が多く寄せられていると言います。実際、筆者も訪れる度に月に少なくとも2、3冊購入するほか、熱心に本を手に取る老若男女の姿をよく見かけます。
まるで美術館!? 巨大な「てんと」
道の駅「しょうなん」の新たなシンボルとなったのが、大きな三角屋根が連なる開放的な形状がひと際目を引く新設棟「てんと」。
敷地内にあったイチゴを栽培している農業用ビニールハウスを彷彿させる三角屋根は10メートルほどの高さを誇り、緩急の勾配をつけて連なるさまは、風格がありながらも、農業が盛んな周りの景色に馴染んでいます。
エントランスゲートは、柏市や我孫子市、沼南地域どこからアプローチしても正面に見えるように設計されており、まさに巨大なテントのよう。「鉄と赤土色の塗装の天井で構成して設計」されているそうです。ゲート前の半屋外空間の大屋根ひろばからは、風光明媚な手賀沼が見渡せ、週末にはさまざまなイベントが行われており、多くの家族連れで賑わいます。
「てんと」を手掛けたのは、「ナスカ一級建築士事務所(NASCA)」(東京都新宿区)に所属する桔川卓也氏。事務所のホームページ(HP)によると、桔川氏が設計担当したプロジェクトの中には、早稲田大学西早稲田キャンパスや廃校の小学校をリノベーションした道の駅「保田小学校」(千葉県鋸南町)など話題となった数多くの建築が列挙されています。
「てんと」は2022年、千葉県内の道の駅として初のグッドデザイン賞を受賞。木村駅長によると、「リニューアル後、新たに建築関係の方や学生ら若者の来場も増えたと実感しています。『まるで美術館のようだ』といったお声も多く寄せられています」。