ワインで楽しむ老舗の味 『なだ万』の特別コースで伝統と革新が重なり合うペアリングに魅了される

『なだ万』。その名を「初めて聞きました」なんて人は、まずいないであろう。 天保元(1830)年、大阪にて創業。1919年のパリ講和会議では、西園寺公望全権大使の随行料理人として三代目・楠本萬助が選ばれる。1986年には東…

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『なだ万』。その名を「初めて聞きました」なんて人は、まずいないであろう。

天保元(1830)年、大阪にて創業。1919年のパリ講和会議では、西園寺公望全権大使の随行料理人として三代目・楠本萬助が選ばれる。1986年には東京サミットの公式晩餐会が『なだ万本店 山茶花荘』で開催される。愛知万博(2005年)では、万博協会からの要請により日本料理の代表として出店する等々、政界財界の要人にも愛される日本料理の名店。

2023年12月15日現在、国内に25店舗。さらに海外にも5軒ものレストランを展開することから、世界一有名な老舗日本料亭といっても過言でもない、それが『なだ万』である。

それだけ名前は知っていたけど、ふと気付いた。実際にお店に赴いて食事したことってなかったよ、と。

いや、『なだ万』が全国の百貨店のいわゆるデパ地下などに展開している食品店『なだ万厨房』の惣菜やお弁当を食べたことはあるんです。そこまではあるが、肝心のその先がない! ワタクシ含め、そういう方、結構多くありませんか?

となると、完全に純粋な好奇心として『なだ万』で食べるって料理って実際どんな感じなのか知りたくありません? と思ってたら、なんと『なだ万』で食事をする幸運にめぐまれた。それも「なだ万総料理長監修特別コース 美食爛漫」(2023年12月28日まで提供)という献立。

これをいただければ、今まで知らなかった『なだ万』の姿がわかる。すなわち、みなさまに「『なだ万』とはなんぞや?」という実体験をお伝えできる絶好の機会!! と、今! この記事を書いている次第である。以上前書き。

料理もペアリングもイメージよりは高くない!

伺ったのは、東京・赤坂『ホテルニューオータニ』のガーデンタワー内の『なだ万 紀尾井』

申し訳ございません、個室で食事させていただきました。もちろん個室以外にも広いダイニングルームもございます。

個室『松の間』。撮影時は夜だったので見えないが、昼には雪見障子のような窓から、江戸時代は井伊家の江戸中屋敷だった1万坪にも及ぶ、ホテルニューオータニが誇る日本庭園が一望。ちなみに松の間の個室料は税サ込みで8855円

さぁ「なだ万総料理長監修 特別コース 美食爛漫」である。みなさま、まず気になるでしょう御値段ですが、1万3200円。そして、お造りと煮物がグレードアップしたコースが1万7600円(両コースともに、別途サービス料がかかります。サービス料は店舗によって異なります。また、どちらかひとつのコースのみを提供する店舗もあり、『紀尾井 なだ万』ではグレードアップしたコースのみの提供で、サービス料を含めた価格は2万240円)。

さて、このお値段。決してお安い価格ではないですが、正直そんなに馬鹿高くないのね、というのが正直な感想じゃありませんか。『なだ万』の『特別コース』なんて聞いたら4~5万するのかと勝手に思い込んでおりました。まずこれが、『なだ万』の第一のうれしい真実第1弾。

『なだ万総料理長監修 特別コース 美食爛漫』のグレードアップコース

さらにこのコースには、料理にマッチするようなワインや日本酒を『なだ万』シニアソムリエがセレクトした『和のペアリング』というグラス5杯の飲料コースを追加することもできる

その内容は料理とともにジックリ説明しますが、これが料理以上にリーズナブル! お酒好きな人ならば絶対に「お得ッ!」って思うその価格は、4180円と6380円の2タイプ。また2640円のノンアルコール4杯のコースもございます。で、ワタクシがいただいたのは6380円のコースです、すみません(別途、店舗によって異なるサービス料がかかり『紀尾井 なだ万』でのサービス料を含めた価格は4807円と7337円。ノンアルコールのコースは3036円となります)。

さぁ~本当にお待たせいたしました。ここから料理、そしてペアリングのお酒についての御紹介。

【実食】オレンジワインと旬菜のペアリングに驚き

一品目「先付」は「ずわい蟹スープ蒸 蟹しんじょ 蟹餡 生姜」(以下、「」内の品目はお品書きに書かれた表記をそのまま書いております)。

品書きを読んで、スープの中にカニ身が浮いてるモノを想像してたんですが裏切られた。カニとスープの量の割合が想定の逆。大量のカニとカニ味噌の回りに少々スープがあるという贅沢な品。ここにペアリングされるのが『シャンパーニュ ルイ・ロデレール コレクション』。

大量のカニにシャンパン。これは誰がなんつったってストレートにウマイし、なによりいきなり幸せになりますよ。その日、どれだけ嫌なことがあったとしても、忘って許せてしまう気持ちになる一品目なのである。

「ずわい蟹スープ蒸 蟹しんじょ 蟹餡 生姜」。匙ですくえば、そこはカニの大量盛りである

2品目の「旬菜」は、小鉢が5品盛られた、いわゆる八寸のような酒肴。ここにペアリングされたのが、オレンジワインの「オレンジ・ゴールド ジェラール・ベルトラン」。

「寒鯖炙ずし 海老芝煮 烏賊金麸羅」「茶振り生子 このわた和え」「壬生菜浸し 焼京揚げ」「クリーム豆腐」「海松貝 陸蓮根」が並ぶ「旬菜」。そして「オレンジ・ゴールド ジェラール・ベルトラン」

オレンジワインって最近大流行ですが、初体験でした。それにしても、なんにでも合いそうな万能型の味わいを持つワインなのね。

ナマコにこのわたを合わせた料理が、まぁ~お酒を呑ませまくる珍味度爆発なんですが、このわたのような塩辛的な料理ってワインに合わせるのは絶対難しいと思ってた。ところがオレンジワインにかかると、料理とワインがのびのびと手を取り合っている

「クリーム豆腐」という甘みのある品にも合えば、淡白な「海老芝煮」でもエビの魅力を充分に引き出す。

大好きな酒肴のような料理の最高レベルに勢ぞろいしたこの「旬菜」。そこに驚愕のマリアージュを見せたオレンジワイン。両者の虜状態である。

いい意味で老舗らしからぬ世界観に感服

三品目の「お造り」は、こういう所が本当に老舗の技だなァと感服するほど見事にエッジの立った「本鮪」。辛味大根醤油でいただく旬の「寒鰤」。そして魚介類の中でも淡白な旨みが売りのフグに、濃厚な旨みが売りの鮟肝をのせるという、聞いただけで「ウマイに決まってるじゃん!」な「柚子釜盛り」

ペアリングするのは、ここで初めて日本酒登場、「久野九平治本店 黒田庄町福地」。自社田で収穫されたお米で作られるテロワールにこだわり抜いたこの日本酒は、ワイングラスでやってくる。

それも! ドッシリ丸形のブルゴーニュータイプの、グランヴァンクラスのワインじゃなきゃ使わないような大型のワイングラス。最近、日本酒をワイングラスでサービスする店も見かけますが、こういう形できたかと。そして、このグラスで呑む日本酒が、また馥郁と太く、冬ならではの味わい乗った刺身と合う

「本鮪」「寒鰤」「柚子釜盛り」の「お造り」に、ブルゴーニュタイプの大型ワイングラスでサービスされた日本酒「久野九平治本店 黒田庄町福地」
たまらないにも程があるフグ×鮟肝の「柚子釜盛り」。ネギと白菜、焼椎茸が添えられ、ぽん酢ゼリーが敷かれている

四品目の「焼物」は「白ぐじ柚香焼 鱗揚げ 酒盗ポテト 生ハム膾巻 銀杏松葉 酢橘」。これは本当に驚いた。だって白ぐじですよ。白ぐじ……白甘鯛ですよ。この魚、そうとうに幻系の超高級魚ですよ。

市場でもほとんどが「高級料亭にのみ出荷」なんて話は聞くので、『なだ万』に卸されるのは不思議でもなんでもないんですが、全国規模で展開しているこのコースに登場させるほどに白甘鯛を確保して仕入れてることに、しつこいようだけど驚いた。

そして甘鯛といえば、鱗がとにかくおいしい魚で有名ですが、そのサクッと揚げた鱗が、官能痺れるほど旨く、そして鱗の立った姿がまるで天然水晶のクラスターのように美しい

天然水晶のクラスターのように見事な白ぐじの『鱗揚げ』

そこに生ハムと大根のナマスを巻いた品や、ワインに合わないとさっき書いた塩辛系の珍味の酒盗をポテトと合わせて魚臭さをマスクして圧倒的に食べやすくしつらえた品。そしてペアリングするのは、魚介類には安定の白ワインであるサンセールから『サンセール シェール・マルシャン』。

五品目の「焼き物」は「博多和牛すき煮」。さっと熱の通った薄桃色の和牛を、卵の黄身が入ったとろろで食べる。そこにカリフォルニアはナパバレーを代表する赤ワイン「ケイマス・ヴィンヤーズ カベルネ・ソーヴィニヨン」。

「博多和牛すき煮」。そして「ケイマス・ヴィンヤーズ カベルネ・ソーヴィニヨン」

口中がアミノ酸で占領されたかのようなとろろで食べる醤油味の和牛。チョコを彷彿とさせる味わいのカベルネ・ソーヴィニヨン。両者がネットリと絡みつく豪儀なまでの日本料理と赤ワインのマリアージュ。味覚中枢悶絶。

そしてコースは「バター」が香る「北海道産帆立」と「アスパラ」が入る「佐賀県産さがびより釜炊き御飯」「香の物」「止碗」と続き、「水菓子」の「すくい塩アイス 博多あまおう 抹茶アフォガード チュロス」で締めとなる。

あたり前の馬鹿みたいな感想として、まずなによりおいしかった。そして伝統的な日本料理が出てくるのかと思ってたら、それだけにとどまらない多様性のある食材と調理法が繰り出されてくることに「おお」と思った

イチゴとアイスクリームに熱い抹茶を掛ける、イタリアのアフォガードを日本の食材で昇華させたような水菓子とかね。

「水菓子」の「すくい塩アイス 博多あまおう 抹茶アフォガード チュロス」

オレンジワインの魅力を初めて知ったんだけど、それが日本料理店だったという事実も、考えてみりゃすごいことですよ。「和のペアリング」といいつつワールドワイドにワインを合わせ、日本酒が登場してきたと思ったらグラスはブルゴーニュのワイングラスでね。

伝統と進取の意気といいますか、まぁとにかく料理の世界観が広い。その広い世界感の『なだ万』を体験することで、「おいしい」という、その時の感銘だけに終わらず、これからの自分自身の料理や食に対する世界観も、ひと銀河分くらい広がった想いである。

もともと日本って家庭の料理でも昨日は焼魚、今日はパスタ、明日は餃子っていう風に、常時和洋中入り交じった料理を台所で作って食べている、世界でも類を見ない食文化に多様性のある国じゃないですか。

その多様性のある日本の食文化を、日本料理の伝統と技術をもとに最も洗練された最先端のスタイルで最上の食材と味わいで体感させてくれる。そして、それはその日の非日常の「おいしかった」という至福の体験だけにとどまらず、食べた人の食の世界観までもを広げてくれる場所。それが『なだ万』なのかもしれない。

■『紀尾井 なだ万』
[住所]東京都千代田区紀尾井町4-1 ホテルニューオータニ ガーデンタワーロビー階
[営業時間]朝食7:00~10:00(10時LO)、昼食11時半~14時半(14時LO)、夕食17時~21時(20時LO)※懐石は19時半LO
●『なだ万』HP:https://www.nadaman.co.jp
●『なだ万総料理長監修 特別コース 美食爛漫』詳細:https://www.nadaman.co.jp/restaurant-info/202312_specialcourse/

取材・撮影/カーツさとう

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