写真界の巨匠・土門拳が愛した老舗料理旅館自慢の山菜料理
この日のランチは、室生寺の近くで。宝生寺は、長谷寺からさらに東へ20kmほど。車で30分ほどの宇陀市室生にある。681年の創建と伝わる。女人禁制だった高野山(和歌山県)に対し、古くから受け入れていたことから「女人高野」として知られる名刹だ。
入ったのは、1871(明治4)年創業の老舗料理旅館『橋本屋』。ここは、寺院や仏像を被写体にした作品で有名な写真界の巨匠、土門拳(1909~90年)が室生寺を撮影するための定宿として利用していたという。1939(昭和14)年に初めて訪れ、室生寺の撮影は土門のライフワークとなった。写真集「室生寺」や「日本の寺─室生寺」、「女人高野室生寺」は写真を学んだ者にとっては教科書のような存在だ。
さて、『橋本屋』の名物は大和芋を使ったとろろが付く山菜料理。筆者がいただいたのは煮合わせと山芋すりおろし、白和え、なす田楽、しめじ酢の物、こんにゃくとうど、わらびのからし和えの6品の小鉢にとろろ汁と香のもの、ご飯が付く「あじさい」(2300円)。
どれも山菜や野菜本来の滋味が口いっぱいに広がる。関西らしく全体的に味付けが薄いため、若い頃に物足りなさを感じていたかもしれない。しかし、五十路となった今ではこの素朴な味わいがたまらないから不思議。年齢とともに味覚も変わっていくのだ。
『橋本屋』
住:奈良県宇陀市室生800 室生寺門前
電話:0745-93-2056
営:10時〜16時
休:不定休
江戸時代の町並みが残る「今井町」のオススメ店
最後に紹介するのは、今、奈良でもっとも注目されている橿原市の今井町。大和八木駅から、今井町の中心まで、徒歩で20数分。まるでタイムスリップしたかのような江戸時代の町並みが残るエリアだ。
町内の建物の半分以上が伝統的建造物で、その8割が今も江戸時代の様式を保ち、岐阜県白川村の白川郷や金沢市内の4地区などと同様に「重要伝統的建造物群保存地区」として国に指定されている。
町並みのどこへカメラを向けても「絵」になるにもかかわらず、まだ情報が行き届いていないのか外国人も含めた観光客の少なさに驚いた。間違いなく奈良観光の穴場といえるだろう。そんな今井町には町家をリノベーションしたカフェやレストランも沢山あり、その中でも人気の2軒を紹介しよう。
まずは、2022年8月にオープンした『cafeたまゆら』。ここでいただいたのは、「たまゆらの万華鏡〜飲むチーズケーキ〜」(1100円)。
カラフルなゼリーとクリームチーズのソース、イチゴ、ケーキクラムが層になっていて、カップの表面には万華鏡で覗いた景色のような美しい模様が描かれている。SNS映えするので、注文した客の大半は写真を撮るという。
穴の大きなストローでしっかりと混ぜて吸い込んでみる。おっ、このチーズのコクや酸味はまさにチーズケーキではないか!
橿原市は飛鳥時代から平安時代、牛乳を特殊な方法で長時間かけて煮詰めて作るチーズのような乳製品、「蘇(そ)」を貴族たちが食していたことから、日本におけるチーズの発祥地といわれる。橿原市内には「蘇」にちなんだチーズグルメを提供する店が数多くあり、ここ『cafeたまゆら』もその一つ。
『cafeたまゆら』
住:奈良県橿原市今井町4-3-22
電話:0744-29-7077
営:11時〜17時(土日祝は11時〜18時)
休:火曜、水曜(祝日の場合は営業)