国連本部で「フォレストヒーローズ(森の英雄)」を受賞
2011年3月、東日本大震災に伴う津波の襲来は、海岸のものを根こそぎ奪っていった。しかし、5月に京都大学の調査隊が調べたところ、海には食い切れないほどカキの餌の植物プランクトンがいたのだ。
それは、陸の広葉樹林が無事だったためだった。海底に落ちた母貝も生きていて産卵し、種苗も付着した。間もなく海の生き物は戻ってきた。そして、わずか半年で通常の漁獲量が確保できるまでになったのである。
2012年2月、畠山さんはニューヨークの国連本部で「フォレストヒーローズ(森の英雄)」として表彰を受けていた。前年の2011年は、国連の定める国際森林年であった。それにちなみ、民間人で森林保全運動をしている個人または団体が、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、中南米の地域から一組ずつ選出されたのだ。アジア代表は畠山さんである。漁民が「森の英雄」に選ばれたのだ。
国連に畠山さんの活動を伝えたのは、陛下と美智子さまであった。2009年7月、陛下と美智子さまはカナダ国及びアメリカ合衆国に公式訪問された。そして、カナダ国シドニー市の海洋科学研究所を見学された際に、研究所の所長から「カナダでは森・川・海のかかわりの研究を開始した」と説明を受けられた。
美智子さまは、
「日本では気仙沼のカキ漁師たちが、もう20年も前から、海にそそぐ川の上流の山に植林しています」
と話されたという。
宮内庁からこのやり取りの連絡があり、英語の資料を求められた畠山さんは、急きょ書籍を英訳して宮内庁に届けた。そのときのカナダ大使がのちに国連大使となり、国連に「森は海の恋人」運動を伝えたのだった。
旬ならではの真っ白でふっくらしたカキを味わう
カキは英語でRのつく月に食べるとおいしいといわれる。気温が上がると卵をもってしまって味が落ちるためだ。
衣はカリッと身はジューシーなカキフライ、セリをたっぶり入れたカキ鍋、ゆでたカキに甘味噌をつけて焼いたカキ田楽……。とれたてのカキを殻からはずして、レモンを絞ってすすり込むのは旬ならではの醍醐味だ。一番おいしいといわれる4月に、海と山に思いを馳せながら旨みあふれるカキを楽しみたい。(連載「天皇家の食卓」第16回)
文/高木香織、写真/高木香織・高木彩奈
参考文献/『皇后陛下御歌集 瀬音』大東出版社、以下の3点は畠山重篤著『人の心に木を植える』講談社、『牡蠣とトランク』ワック、『鉄は魔法使い』小学館
高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、カレンダー『永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。