■「スマホは【家族みんなで】にとどめを刺した」
いまさら言うまでもなく、スマホはひとりで使うモノである。家族でひとつのスマホを囲むなどということは、まずもってない。振り返ってみればスマホとは、われわれにたとえ家庭にあっても、ひとりで世界と対峙することを宿命づけた家電だったのではないか。
スマホの普及はつまるところ、「家族みんなで」にとどめを刺した。そして「家電と家族」のイメージを終わらせ、「家電と幸福」のイメージをかぎりなく個人的なものに変質させたのではないか。
私はそう考えながら、みんなひとりでのぞき込むスマホの向こう側で、まいにち仕事をしている。
しあわせの変質を悔いているわけではない。ましてやスマホを糾弾したいわけでもない。家族の幸福の象徴であった家電を知らない私には、それは変化ですらない。
ただ、これで家族の暮らしが上向くと信じて家電が買われた時代に、うっすらとあこがれがある。その楽観的な家電への憧憬を抱えながら、私はひとりで、ひとりに向かって、家電の広告を考えている。
繰り返すが、スマホという家電が私たちを不幸にしたのではない。しあわせのあり方を変えただけだ。
最大多数の最大幸福という法則がいまも有効なら、家族単位のしあわせより、ひとりひとりのしあわせの最大化を実現する方が、社会の幸福量は増えているはずだろう。
だから私の中に絶望はない。
ないけど、ほんの少しのさびしさと、圧倒的ないそがしさがある。手からスマホを離せなくなった時代のしあわせは、もう牧歌的な場所にはないのだ。そういう前提に立ってようやく、現在の「家電としあわせ」は再考できるのではないかと、ひとり考えている。
文・山本隆博(シャープ公式Twitter(X)運用者)
テレビCMなどのマス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートで、企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索している。2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021ACCブロンズ。2019年には『フォーブスジャパン』によるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。近著『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社ビーシー)
まんが・松井雪子
漫画家、小説家。『スピカにおまかせ』(角川書店)、『家庭科のじかん』(祥伝社)、『犬と遊ぼ!』(講談社)、『イエロー』(講談社)、『肉と衣のあいだに神は宿る』(文藝春秋)、『ベストカー』(講談社ビーシー)にて「松井くるまりこ」名義で4コママンガ連載中