ロス五輪で度肝を抜いた「ロケットマン」五輪商業主義とともにショーアップ化が加速
回を重ねるごとに演出が華やかになり、ついにスタジアムを飛び出すことになったオリンピックの開会式だが、かつては開催国元首の前を各国選手団が整然と行進する「観閲式」スタイルで行われていた。選手宣誓、聖火の点灯、オリンピック旗の掲揚とオリンピック賛歌の演奏といった儀式的な内容のほかは、せいぜい平和の象徴であるハトの放出や飛行機雲で空に五輪を描く程度だった。
転機となったのが、1984年のロサンゼルス大会だ。『スター・ウォーズ』や『E.T.』といった映画音楽で有名なジョン・ウィリアムズを芸術監督に迎え、ハリウッドスタイルで開会式をショーアップ。なかでも背中にジェット噴射装置を付けた「ロケットマン」がスタジアムを遊泳する姿は大きな話題となった。この背景にはオリンピックの商業化があり、開会式をショーアップすることで視聴者の関心を集め、テレビ局がスポンサーを確保する戦略があったとされる。ロサンゼルス大会以後、オリンピックは商業化路線に舵を切り、開会式のショーアップ化も加速していくことになる。
坂本龍一さんが指揮したバルセロナ大会、火矢が聖火を点火
1992年のバルセロナ大会の開会式は夏季大会では初の夜間開催。アーチェリーの弓から放たれた火矢で、聖火を点火する演出が世界を驚かせた。音楽家の坂本龍一さんがオーケストラを指揮し、自らの曲を披露したことを覚えている人も多いだろう。
1996年のアトランタ大会では、聖火点火者としてボクシング金メダリストで、元ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリが登場。パーキンソン病を患いながら震える手で聖火を灯すサプライズがあった。
2000年のシドニー大会はオーストラリアの歴史を描いたエンターテインメントショーが展開された後、先住民族アボリジニ出身の陸上選手、キャシー・フリーマンが最終聖火ランナーを務め、民族融和を世界にアピール。2008年の北京大会は革命歌を歌う少女の口パク騒動など過剰演出があったものの、ワイヤーアクションを用いた斬新な聖火の点火や、きらびやかな照明と花火のショーで中国の国力が誇示された。