皇室のヒミツ、皇族の素顔

「御料車」はなぜ「特別車両」になったのか 皇室専用車両の秘密に迫る(1)

特別車両の車内から沿線で待ち受ける人々にお手ふりでお応えになる上皇后美智子さま(当時は皇后陛下)=2010(平成22)年9月26日、JR外房線御宿駅~勝浦駅間(千葉県勝浦市部原)

1872(明治5)年の鉄道開業以来、皇室とお召列車はともに歩み続けている。天皇、皇后両陛下がお乗りになる鉄道車両は「御料車」と呼んでいたが、2007(平成19)年にJR東日本が新型の皇室専用車両を誕生させると名称を改め、「特別車両」と呼ぶようになった。この特別車両とは、どのような装備が施されているのか、内装は豪華絢爛なのか。皇室専用車両の秘密を解き明かすことにしよう。

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1872(明治5)年の鉄道開業以来、皇室とお召列車はともに歩み続けている。天皇、皇后両陛下がお乗りになる鉄道車両は「御料車」と呼んでいたが、2007(平成19)年にJR東日本が新型の皇室専用車両を誕生させると名称を改め、「特別車両」と呼ぶようになった。この特別車両とは、どのような装備が施されているのか、内装は豪華絢爛なのか。皇室専用車両の秘密を解き明かすことにしよう。

※トップ画像は、特別車両の車内から沿線で待ち受ける人々にお手ふりでお応えになる上皇后美智子さま(当時は皇后陛下)=2010(平成22)年9月26日、JR外房線御宿駅~勝浦駅間(千葉県勝浦市部原)

車両の名称をどうするか

JRが日本国有鉄道だった時代には、皇室専用車両は「御料車」と呼ばれていた。“御料”とは天皇の御物(ぎょぶつ)を意味する宮廷用語であり、すなわち天皇のための鉄道車両としてふさわしい名称だった。1987(昭和62)年に国鉄が分割民営化され、JRになっても御料車の名称は引き継がれた。この当時に使用していた御料車は、1960(昭和35)年に国鉄が製造した御料車第1号と呼ばれるもので、平成年間にも何度か“お召列車”として使用された。

御料車の車齢が45年を迎えようとしていた2004(平成16)年になり、JRから車両の老朽化や交換部品の確保が難しくなったという理由から、新型の皇室用車両を製造するプランが打ち出された。1989(平成元)年にも、JRから新型の御料車を製造する案が出されていたが、上皇陛下(当時は天皇陛下)から「できるだけ一般の人と同じ手段で移動したい」とのお考えが示されため、見送られていた。

JRは、満を持して送り出す皇室専用車両の名称について、民間企業であるJRが「御料」という名称を使用することはいかがなものか……ということになり、その名称は「特別車両」と改めることになった。御料車という名称は、「天皇=国家」という明治以来の考え方に基づくものだったからだ。

昭和天皇から引き継いだ“御料車1号編成”を使用した「お召列車」=1999(平成11)年4月8日、JR中央本線上野原駅~藤野駅間(相模原市緑区)

ハイグレード車両「なごみ」(5両編成)が誕生

今の時代にふさわしい皇室専用車両を製作しようと、これまでは「お召列車」だけに特化していたことを見直し、お召列車として使用しないときは高級志向の「団体専用列車」として使用できることをコンセプトに、新型車両の開発は進められた。一方、御料車に代わる車両については、天皇専用という概念を取り払い、「天皇、皇后両陛下をはじめ、皇族方、国賓等の公務や行事で使用することができる車両」として製作することになった。

その結果、お召列車として使用しないときは、特別車両を連結せずに団体専用列車として使用できるハイグレード車両「なごみ」(5両編成)を誕生させ、そこに特別車両を連結すれば「お召列車」として使用できることを実現した。

ボディカラーは、光のあたり方で色合いが変化する高品位な塗装とし、茶色から濃い赤紫色に変化する“マジョーラ塗装”を採用した。車体には金色の3本線を配し、気品あふれる高級感を演出した。

天皇陛下は皇太子時代の1回と、皇后陛下とのご同乗を含め2度(3回)乗車している=2010(平成22)年9月27日、JR外房線勝浦駅~鵜原駅間(千葉県勝浦市串浜)
特別車両を連結していない状態のハイグレード車両「なごみ」5両編成=2010(平成22)年4月5日、JR東海道本線真鶴駅(神奈川県足柄下郡真鶴町)

座席は絹織物を使用した生地の特注品

御料車に代わる皇室専用車両として誕生した特別車両は、形式を「E655-1」といい、グリーン車を表す「サロ」などの車両記号は冠しなかった。また、車両の名称を御料車としなかったことにならい、室内の名称も改められた。天皇、皇后両陛下のお居間である御座所(ござしょ)は「特別室」に、御休憩室は「休憩室」、御化粧室は廃し「トイレ」とした。

内装には天然木を使用し、引き戸には高級和紙を用いた和装を取り入れた。座席は絹織物を使用した生地の特注品とし、老舗高級百貨店がその製作を担当した。日本らしい「和」を表現した室内デザインは、皇室にふさわしいできばえとなった。

特別車両のサイドビュー。一段と大きい窓がある位置が特別室で、その窓下には菊華御紋章が取り付けられるようになっている。写真は回送列車なので、菊華御紋章は掲出されていない=2010(平成22)年9月27日、JR外房線上総湊駅~竹岡駅間(千葉県富津市竹岡)

文・写真/工藤直通

くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。

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