松茸が入った大きな袋が!
適当なところで切り上げ、夕方になる前に車にのった。自転車で走ってきた道を車で一気に駆け抜け、出発地であるパロの国際空港に戻るという予定だった。もっとも、悪路のために車でも一日では走りきれず、途中で一泊する。
村の出口でテンジンが車をとめるよう運転手に言った。テンジンは車の窓を開けて村の男性に声をかけ、何か話している。男性は頷き、家に入ったかと思うと、大きな袋を抱えて現れた。
「わわ、松茸やん!」
「この人は知り合いなんです」
ダメ元で聞いたらちょうど在庫があったというのだ。どうやらテンジンは落胆している僕を見て、なんとかできないかと気をもんでいたらしい。あんた最高のガイドだよ!
袋の中には大きい松茸が十五本ほど入っていて、五百ヌルタム、日本円でなんと八百円!
その夜、村のホテルに着き、厨房を貸してもらえないか聞くと、宿はすぐに了承してくれた。
松茸をタワシでこする光景に絶叫!
松茸をテンジンに託し、部屋に入ってさっとシャワーを浴びる。そのあと食堂に行き、厨房をのぞいた瞬間、顔から血の気が引いた。テンジンと運転手の二人が松茸をボウルの水につけ、靴でも洗うようにタワシでゴシゴシこすっていたのだ。
「やめろーっ! 香りが飛んでしまう!」
だが時すでに遅し、タワシで洗われた松茸はホワイトマッシュルームのように白くなっていた。頭がクラクラしたが、洗浄作業は始まったばかりだったようで、洗う前のものがまだたくさん残っている。助かった……。
僕は彼らに「いいかい、こうやるんだ」と言って布巾で表面の泥を優しくふきとった。そうやって処理した茶色い松茸と、徹底的に洗われた白い松茸、両方を金網にのせ、コンロに置く。
驚愕の美味しさ「松茸オムレツ」
松茸はまだまだあり、それをスライスすると小さなどんぶりに軽く二杯分になった。その一杯を、ホテルが僕らに用意していた野菜スープに入れ、もう一杯を卵と混ぜてオムレツにする。
テンジンと運転手と僕の三人で料理を囲み、まずはスープをすすった。松茸がドドドドドと口の中に入ってくる。クキュクキュと音が鳴りそうな歯触りにふわあっと広がる芳香、なんたる贅沢! 水炊きのエノキダケみたいに松茸が食べられるなんて!
次いでオムレツを頬張ると、とろとろのクリーム状になった半熟卵の中から大量の松茸が口内になだれ込んでくる。うほほ。至福の思いで噛むと、繊維がシャキシャキとほぐれ、香りを放ちながら松茸が身悶えし、こっちも身悶えしながら、ルンバルンバ……バ、バ、
「爆発的にうめえええっ!」
牛丼をかっこむように松茸オムレツを口いっぱいに詰め込み、香りに酔い、嚥下し、再びかっこむ。僕は長いあいだ誤解していた。松茸は少量をありがたく食べるからうまいのだと。でもそうじゃない。口いっぱいに頬張ったらもっとすごい。これが「幸せの国」の実力か!