ブータン語で松茸は「サンゲシャモ」、ラベルには「MASUTAKEE」
会場に流れていた民族音楽がテクノに替わった。伝統芸能が行われていた広場では、腰穿きのだぼだぼジーンズにラフなシャツにキャップ、といういまどきの格好の若者がブレイクダンスを始め、もはや“伝統の祭り風”ですらなくなった。
とにかく松茸を食べないことには収まらない。ブータン語で松茸は「サンゲシャモ」だ。サンゲシャモの料理がないか人に聞いてまわったら、一人のおじさんが「あの店にあったよ」と教えてくれた。
行ってみると、何種類もの揚げ物がパックされて並んでいる。「サンゲシャモはどれ?」と聞いてみると、店のおじさんはかき揚げのようなものが入ったパックを指差した。ラベルには《MASUTAKEE》。
はあああとため息が漏れ、力が抜けていった。会場を覆っていたそこはかとない“やらせ感”がこのラベルに集約されているようだった。記者の言っていたことは本当かもしれない。
誰に向けた祭りか、このラベルにはっきりと表れている。もはやどうでもいいが、松茸のアルファベットの綴りもえらいことになっている。マスタケエエ。
どうやらそれが唯一の松茸料理のようだった。手のひらサイズのかき揚げが五個入って約八十円。かき揚げだから松茸は細かく刻まれている。買って食べてみると、ピリッと辛く、にんにくと生姜が強く香った。松茸の香りは完全に消され、シャキシャキした食感だけがかろうじて残っている。これならエリンギでええがな。
今年は不作、昨年は約10種類の松茸料理が出た
まさかこれでおしまい? 肉体を酷使してやっとたどり着いた松茸祭りの松茸が、まさかこのピリ辛にんにく生姜味の松茸だけ?
ち、が、う、だろー! とかつていた女性国会議員のように絶叫したくなったが、ええいもういい、祭りはいい、せめて松茸をたらふく喰ってやる、生の松茸を買って宿で自炊しよう、そう考え直し、販売ブースに行ったら松茸は売り切れて一つも残っていなかった。あはは。
そこへ祭りの実行委員を名乗る男が話しかけてきた。
「この松茸祭りをどう思いますか?」
「どこに松茸があるんだ!」
「今年はあまりとれなかったんです。去年は十種類ぐらいの松茸料理が出たんですが」
ほんまか? それはほんまにほんまのことか?
僕の疑惑の目をよそに男性はマイペースで「日本ではこの祭りのことがどれぐらい知られていますか?」「日本人の姿があまり見えませんが、これから何人ぐらい来そうですか?」といったことばかり聞いてくる。会場を歩きまわって目にした日本人はさっきのガイドブックの記者だけだ(このあと海外青年協力隊の日本人が何人か来たが)。
そこへ酔っぱらったおばさんがやってきて、「あんた楽しんでる?」みたいなことを言い、
僕の手をとって踊りながらクルクル回った。僕もやけくそでおばさんに合わせてクルクル回ったら、まわりのブータン人がやんやとはやし始めた。するとおばさんはますますハッスルして僕と一緒にルンバルンバ……って、これのどこが松茸祭りじゃあああっ!