午前2時すぎまで「籠城」
加えて開幕から一度も勝率5割に届かない体たらくぶりに、甲子園球場ではファンが応援を拒否する事態に。そんな四面楚歌で迎えたシーズン終盤の9月12日、球団から解任が通告される。
しかし、オーナーから口頭ながら複数年契約の言質を取っていた藤田氏は約束が違うと猛反発。さらに解任理由が成績不振ではなく「求心力、統率力に欠ける」ということに「これまでの野球人生を否定されてしまう」と涙目で謝罪を要求し、翌日午前2時すぎまで約9時間に渡り、球団事務所に「籠城」を決め込んだ。一夜明けてからの再会談後に、球団が休養を発表、事実上の解任となった。この件について、藤田氏は多くを語ってはいないが、次のようなコメントを残している。
「監督を辞める時も親会社とは最後まで話ができなかった。(略)私にも引き際の美学があったが関係なし。阪神は球団や本社は誰も責任を取らず、歴代の監督が詰め腹を切らされてきたが、まさにその形ですわ」(週刊ポスト2019年11月5日)
楽天監督の電撃退任
今オフはセ・パ5球団で監督交代があったが、オリックス・中嶋監督とは別の形で「電撃退任」となったのが、楽天の今江敏晃監督だ。今江監督は今季から指揮をとりチームを交流戦初優勝に導き、シーズンも最終盤までCS進出争いを繰り広げ4位と、ルーキー監督としては及第点以上の戦いぶりを見せていた。
しかし、球団には選手の起用法や采配面で不満があったとされ、借金5で5割を割り込んだシーズン成績を理由に、2年契約の1年目でチームを去ることになった。球団の発表によれば「解任」ではなく、「契約解除」。藤田氏は、阪神球団は監督という仕事を「電車の車輪の一部程度にしか見てない」といったそうだが、楽天球団も監督の契約を、スマホのように簡単に途中解約できると考えているということか。
球団組織の中では歯車の一つ
「球団には若い自分に監督というチャンスをいただけたことに感謝しています。私自身は今年一年を全身全霊、信念を持ってぶれずにやったので悔いはありません」(日刊スポーツ2024年10月11日)と今江監督。契約期間を見越した、若手選手の長期的な育成の構想などもあっただろうに、恨み節を残すわけでもなく、潔い身の引き方だった。
プロ野球の監督は現場のトップだが、球団組織の中では歯車の一つでしかない。出処進退を自分で決めることができるのは、実績を残した監督だけに与えられる特権といえるのかもしれない。
石川哲也(いしかわ・てつや)
1977年、神奈川県横須賀市出身。野球を中心にスポーツの歴史や記録に関する取材、執筆をライフワークとする「文化系」スポーツライター。
※トップ画像は、オリックス・バファローズ本拠地「京セラドーム大阪」Loco – stock.adobe.com