「直訳ですが、『エル ボスケ エス ラ ノビア デル マル』でしょうか」
そこで、そのとおりに言ってみました。すると、ビクトルさんはニヤリと笑い、
「ここスペインでも『エル ボスケ エス ラ ママ デル マル(森は海の母さん)』と言っていますよ」
と言うのです。わたしは、ほんとうにびっくりしてしまいました。やっぱり漁師はどこでも、経験的に森が大切だと思っているのですね。わたしたちは思わず握手しました。ここの湾に注ぐ川の上流にはどんな木が生えているか、と聞きました。
「昔、ガリシアは、ロブレとカスターニャという木でおおわれていた。とくにロブレは、船をつくる大切な木で、昔、世界最強の海軍といわれたアルマダ(無敵艦隊)の軍艦もこの木でつくられていたのさ。ガリシアの山も、いまは生長が早く10年ほどでパルプ材として売れるユーカリが多いのだけど、やはりロブレに戻さなきゃ」
ロブレとは、どんな木なのか尋ねると、ビクトルさんは、
「秋になると葉が落ちてしまう、丸い実のなる木です。明朝8時半にここに来れば、ムール貝の水揚げをする船に乗せますよ」
と、誘ってくれたのです。なんという幸運でしょう。はじめの日からこんな幸運に恵まれ、ただ驚くばかりです。
オルバーリャ(小ぬか雨)が森を育てる
翌朝、ビクトルさんがくると出航です。50トンほどのズングリした独特な形の木造船です。とても安定感があります。
筏に着くと、ムール貝の水揚げです。黒いかたまりがつぎつぎに引き上げられ、たちまちムール貝の山になります。それをスコップですくい、大きなステンレスのカゴに入れるのです。
筏に上がって海をのぞくと、黒々としたワカメが波に揺れていました。 ワカメの下をのぞくと、思っていたとおり、魚が大群で集まっていました。クロダイ、アジ、イワシ、スズキなども見えます。
この光景は、わたしが子どものころの三陸リアスの海そのものです。じつにうらやましいかぎりです。息子たちが、
「あんなにいる魚をどうして釣らないの」
と、不思議そうな顔をしているので、ビクトルさんに聞くと、
「ここでは必要以上のものはとらない」
ということでした。