デフォルトながらも豪華な具材の「味千ラーメン」
案内されたのは、店内奥のカウンター席。オープンキッチンになっていて、ここから厨房を眺めることができる。注文は卓上のタブレット端末で行うのだが、「復刻ラーメン昭和味」や「味千ラーメン」、「黒マー油ラーメン」、「パイクー麺」、「味噌豚骨ラーメン」、「醤油ラーメン」と、かなり種類が多くて迷ってしまう。
味千初心者である筆者は、やはり店名を冠した「味千ラーメン」(800円)に「半チャーハンセット」(麺類に+320円)を付けることに。厨房へ目をやると、タブレット端末から伝わった注文情報を基にスタッフさんたちが慌ただしく手を動かしている。チャーハンは自動調理器かと思いきや、せっせと中華鍋を振っていた。
実に手際がよく、10分も経たないうちに注文したメニューが運ばれた。チャーハンに紅ショウガは添えられておらず、その代わりに小皿に盛られたつぼ漬が付いてきた。これは初めてのケースだ。
では、まず「味千ラーメン」からチェックしてみよう。具材はチャーシュー2枚と味付け玉子半分、キクラゲ、ネギ。スープ表面に浮いているのがマー油だろうか。デフォルトのメニューにしては豪華である。
スープをひと口飲んでみる。熊本ラーメンは博多ラーメンよりも濃厚だと思い込んでいたが、それは見た目であって、実際は違っていた。奥深いコクがあるのに後味はさっぱりしているのだ。気になる臭みも皆無。
チャーハンとラーメンのそれぞれが引き立て合う
聞くところによると、博多ラーメンのスープは注ぎ足して作るが、熊本ラーメンはその日に使う分だけ仕込むため臭みが少ないらしい。また、博多は豚骨のみだが、熊本は豚骨に鶏ガラも加える店もあるという(味千ラーメンは豚骨のみ)。この細かい違いこそが文化なのだ。九州=豚骨ラーメンとひと括りにしていた自分が恥ずかしい。
次にチャーハンをチェック。卵に吸わせた油が見事なまでにご飯の一粒ひと粒をコーティングしている。口に入れると、ふわっと米粒がほどけて、塩とコショウ、醤油だけではない複雑な旨みが広がる。この味は何とも例えようがない。
「味千ラーメン」の通販サイトには「チャーハンの素」も売られている。原材料を見ると、食塩、醤油、玉ねぎ、エビパウダー、胡椒、ガーリックパウダー、ビーフエキス、オニオンパウダー、ポークエキス、シイタケパウダー、ジンジャーパウダー、ポークオイル……と、盛りだくさん。そりゃ複雑な味わいがするわけだ。
味付けはやや濃いめだが、味千ラーメンとの相性はすこぶる良い。チャーハンを食べるとラーメンが食べたくなり、ラーメンを食べるとチャーハンが食べたくなる無限のループを久しぶりに味わった。その合間につぼ漬をつまむと、甘みが加わってさらにおいしく感じる。チャーハンにつぼ漬も十分アリだと思った。
五十路の身体に熊本ラーメンとチャーハンはキツイと思っていたが、ペロリと完食。いやー、おいしかった! 店の外へ出ると、味千ラーメンのキャラクターで、創業者の娘さんが3歳の時をイメージしてつくられた「チイちゃん」の像が筆者を見送ってくれた。
取材・撮影/永谷正樹
1969年愛知県生まれ。株式会社つむぐ代表。カメラマン兼ライターとして東海地方の食の情報を雑誌やwebメディアなどで発信。「チャーラー祭り」など食による地域活性化プロジェクトも手掛けている。