「ガチ」中華のレジェンド【2】絶妙な火入れの上海ガニは秋冬だけの味覚『中国料理 味味』店主 小林龍太さん
1949年生まれ、75歳。父が台湾人で母は日本人。5歳の頃に中国に移り住んだ。若い頃に世界を旅し、技術職の会社員もしていたが、32歳で日本に戻り、中華料理店で働いた後に独立。独自の料理とキャラが人気で、75歳の今も寝る間を惜しんで働く日々。
おいしいと言って喜んでくれるのが一番うれしいんだよ
蒸し上がった上海ガニを食べてカメラマンが唸った。
「何がすごいって蒸し方。ほら、ミソの部分がレアに見えるけどしっかり火入れされてるでしょ。これ以上でも以下でもダメ。この寸止めの蒸し方が絶妙!」。
言われてみればそうだ。とろとろのミソは濃い卵黄のように恐縮した甘い旨み、身は繊細でしっとり。甲羅に紹興酒をトクトクッと入れてミソを溶かしつつ飲んだ時にゃもう……はぁ昇天。
「使うカニは一杯150g以上。ミソたっぷりでおいしいでしょ」。
上海蟹1杯 5000円
付きっきりで食べ方を教えてくれるこの方こそ店の主、台湾と日本のハーフ、小林龍太さん75歳。付きっきりですよ?こんな店ないですよね。
舞台は学芸大学駅の名物中華。話は中国を代表する秋冬の味覚、上海ガニの巻である。そもそも小林さんの味は他にはない料理が多いのだが、秋から冬にかけて登場する高級食材なら上海ガニ。中国から週2回届くそれは例年10月~12月中旬頃まで提供される。
日本では珍しいこともあって短い期間中に3~4回食べに来る人もいるとか。活きたまま蒸籠で調理する姿蒸しの他、紹興酒に漬け込んだ「酔っ払いガニ」もあり、こちらの提供は1月頃まで。
実はですね、このカニエキスがたっぷり溶け込んだ紹興酒を炒め物などの隠し味に使うそうで、「エキス入り紹興酒は数々の料理に必要だから、「酔っ払いガニをたくさん仕込むんだヨ」。
例えば「芽キャベツとエビ炒め」。静岡産の芽キャベツをプリプリのエビと一緒に炒めるのだが、その時に例の紹興酒と南高梅のエキスをひと回し。両者が味に風味と奥行きを出す。お見事です。
芽キャベツとエビ炒め 2500円
それにしても小林さんとはナニモノなのか。かいつまんで説明すると。日本で生まれ、幼少期に家族と中国・南京へ移り住んだ。食べることが大好きで「美味を知るのは自分で味わってみないとわからない」と青年時代は中国、アジア、南米などを放浪しながら食べ歩いて“舌”を磨いたそうだ。
30代で日本に戻ってからは中華料理店でも働き、47歳で独立。それがこの店。まあね、お世辞にも店はキレイとは言えないが、ガチの雰囲気が好きな人はどっぷりハマると思う。それは料理の“味”が魅力的なのはもちろんのこと、お茶目で憎めない小林さんのお人柄の“味”があるから。 あ、だから味がふたつで「味味」か(推測です)。
「料理を作るのが楽しいし、何より目の前のお客さんがおいしいって喜んでくれるのが一番うれしい。お互いが幸せになるんだから、いい仕事だと思うよ」
いいこと言うなあ。味も雰囲気もディープだけど、どちらも実にやさしい。モバイルオーダーでポチッとで終了とは真逆の、人と人が関わることの大切さを思い起こさせてくれる店なんです。
『中国料理 味味(みみ)』@学芸大学
[住所]東京都目黒区鷹番3-7-17
[電話]03-5721-0082
[営業時間]17時~翌1時、土・日・祝:12時頃~24時頃
[休日]基本無休
[交通]東急東横線学芸大学駅西口から徒歩3分
撮影/鵜澤昭彦(新珍味)、鵜澤昭彦(味味)、取材/肥田木奈々(新珍味、味味)
■おとなの週末2025年2月号は「醤油ラーメン」
※2024年12月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
…つづく「漫画の神様・手塚治虫の要望で生まれた町中華とは? レジェンド料理人3氏に聞く、人を笑顔にする“おいしい”町中華の秘密」では、町中華のレジェンド料理人たちに聞いた“おいしい”町中華の秘密を紹介します。