ヤカンのビールを回し飲み
広岡管理野球といえばキャンプ中の禁酒も有名だ。炭酸飲料も禁止されていたのだから、ビールなどはもってのほか。夕食の食卓にアルコールはいっさいなかった。しかし左党揃いの選手たちが、そう簡単に「練習後の一杯」を我慢できるはずもなく、当時のチームのエース、東尾修が考えついたのが、ヤカンにビールを入れておくことだった。
「コップに入れるとビールってバレるから、湯飲み茶わんで。それも、一気に飲んだり、うまそうに飲んだりすると分かっちゃうから、熱いお茶みたいにチビチビすすりながら飲んだんだ」(『プロ野球仰天伝説 禁酒のキャンプの夕食にヤカンでビールを飲んでいた西武ナイン』週刊ベースボールオンライン2018年4月18日)
このヤカンビールが東尾から、田淵へ、大田へ、選手たちの間で飲み回された。こうした小さなルール破りを共有することで、広岡管理野球に反発する選手たちの結束力が高まっていったという。このシーズン、西武はリーグ優勝を果たし、さらに日本一に輝いた。
「広岡さんに反発した選手は一杯いるんだけど、ひょっとしたらあの人の作戦だったのかもわからない。初優勝の時は見てろ、やったろうやないかという思いが力になったから。監督のためになんて思っていたヤツなんて誰もいなかった」(大田、前掲)