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2月1日から約1ヵ月に渡って行われるプロ野球の春季キャンプ。これまでにキャンプ中の食生活に着目し、指導にあたった指揮官は数多くいたが、その中でも厳格な管理を徹底したのが、西武ライオンズ時代の広岡達朗監督だ。グラウンド内外の規律を重んじた「管理野球」の象徴ともいえる、当時のキャンプでの食事情をひもとくと、悲喜こもごものエピソードとともに、意外な西武黄金時代の力の源泉が見えてくる。

私生活まで厳格に選手を指導

「管理野球」といえば広岡達朗の代名詞。1982年の西武ライオンズ監督就任にあたり広岡は、グランド内での練習やトレーニングだけでなく、私生活まで選手を管理する厳格な指導スタイルをチームに導入した。

食生活の管理もその一環。玄米や豆乳を中心とした自然食が勧められ、肉は控えめに、という食事の指針が掲げられた。当時の主力選手だった大田卓司は、広岡が選手たちとの最初の顔合わせで、あいさつもそこそこに食事と栄養について話したことを、記憶しているという。

「『スポーツ選手の血液はアルカリ性じゃないと勝てない』って、ミネラル、ビタミンが大事だから玄米や海草を食べろ、肉は食べるなと。オレがプロになったとき、西鉄みたいなあんな弱いチームでも絶対に食事に肉はあったからね。体が資本の野球選手が肉食べなきゃ生きていけないじゃない。このオッサンなに言ってんのかなと思った(笑)」(『ライオンズ一筋、最後の野武士 大田卓司』読む野球-9回勝負-No.4)

選手から不満続出、田淵が抗議したが

高知・春野でのキャンプ初日、大田ら選手たちが夕食会場で目にしたのは、アサリの網焼きや干物、そしてたっぷりの野菜に真っ黄色をした玄米に豆乳・・・、肉類はなかった。
「朝から晩まで野球やって、ミーティング好きだから毎晩あるし、その上、夜間練習もあるし。キャンプなんてメシしか楽しみがない。それなのにメシの時間、選手たちが食堂にいるのほんの3、4分ですよ」(大田、前掲)

Photo by Adobe Stock

数日後、選手たちから不満の声が噴出。ついにはチーム最年長の田淵幸一が代表して広岡に直談判する事態となった。その結果、意外な事実が明らかになる。広岡曰く、「板さんが勘違いしてんだよ」。肉食禁止とメディアが大袈裟に報道したことに宿舎のシェフが気を回し、肉類を出さなかっただけだというのだ。これ以後、夕食のテーブルに肉類が並ぶようになったという。広岡も次のようにいっている。

「肉を食うななんてひと言もいっていない。肉を食べてもいいけど、それを翌日の昼までにしっかり排出しなければ、毒素が残ってしまう。主食は白米でもいいが、全体食の玄米や胚芽米のほうがバランスがとれていて望ましい。身体を酸化させないために、血液を弱アルカリ性にすることが重要で、何をどのように食べればいいか、栄養学者に話をしてもらったり、実際の食事を具体的に教えたりした」(『管理野球という名の革命』Number782号)

広岡が求めていたのは肉類の完全な排除ではなく、栄養バランスの取れた食事。広岡が自然食を推奨することから、「管理野球は肉食禁止」という誇張されたイメージが一人歩きしていたが、実は肉類を食べることは禁止されていなかった。

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石川哲也
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