変わりゆく東京の街、江戸から続く店は決して多くはない。何せ6つの時代を生き抜いてきたのだから、それは奇跡と呼べるのかも。受け継ぐ技、守る心、ひたむきな姿勢。そこにあり続けるのは理由がある。さあ、江戸の味を探しに出掛けませんか。
画像ギャラリー変わりゆく東京の街、江戸から続く店は決して多くはない。何せ6つの時代を生き抜いてきたのだから、それは奇跡と呼べるのかも。受け継ぐ技、守る心、ひたむきな姿勢。そこにあり続けるのは理由がある。さあ、江戸の味を探しに出掛けませんか。
まるで博物館のよう!どぜう料理専門店で江戸の食文化を食べて感じて体験『駒形どぜう』@浅草 創業享和元(1801)年
駒形橋からほど近い通称「江戸通り」を歩いていると、突如として威風堂々たる日本家屋が現れる。
お気づきだろうか。江戸商家造りを用いたこの稀有な建物は、大名行列を見下ろすことがないよう大通りに面した2階に窓がない。
暖簾に踊るのは「どぜう」の3文字。そう、創業223年になる『駒形どぜう』である。
本来の表記「どぢやう」や「どじやう」は四文字で縁起が悪いと、奇数文字にして看板に書いたのが由来。これが評判を呼んで繁盛した。
当時は江戸に“やっちゃ場”という市場があり、馬や牛で野菜などを運んできた商人が朝から「どぜう汁」を掻き込んで精をつけた。
どぜう汁 350円
ひと仕事終えた帰りにまた店に寄る人もいたというから、その人気ぶりがうかがえる。昔は店前に馬や牛の繋ぎ場もあったそうだ。
「どぜうなべ」は厳選したどじょうに独自の下ごしらえをしてから、浅い鉄鍋に並べて供される。
通はこれを2~3枚頼み、酒をきゅっとやって「じゃあな」。粋だねえ。
1階の入れ込み座敷を見渡せば、顔を寄せ合い鍋をつつく男女、ひとり鍋の年配客。ああ、ここは往時の風情が今なお息づいているのだ。
時代は変われど楽しむ心は同じ。一瞬、江戸の町に迷い込んだかのような錯覚に陥るのは、私だけではあるまい。
副店長の小形輝昭さん「どぜうを通じて江戸食文化を体感してほしいと思っています。」
[住所]東京都台東区駒形1-7-12
[電話]050-5448-6266
[営業時間]11時~20時半(20時LO)
[休日]不定休
[交通]都営浅草線浅草駅A1出口から徒歩2分、都営大江戸線蔵前駅A6出口・地下鉄銀座線浅草駅2番出口から徒歩5分
代々伝承してきた古典的技法を守る江戸前寿司の本流を気軽な雰囲気で『弁天山美家古寿司』@浅草 創業慶応2(1866)年
形あるモノはどんなに大事にしても壊れたり無くなったりしてしまう。けれど技や文化は時を超えて受け継がれる。
1日1日が1年となり、10年、100年、150年……親方の手から生み出される握りは、代々受け継いできた魂のようなものが宿るのではないか。
初代は江戸前寿司の始祖とされる華屋与兵衛の流れを汲む「千住みやこ寿司」で修業。5代目の内田正さんは御年79歳だ。
「生の魚を握る現代の寿司はいわば“生寿司”ですが、うちは古典的技法の寿司。昔は冷蔵庫もないからネタをおいしくするため、煮る、〆る、漬けるなど下ごしらえした。教わった技を弟子に繋げる、その伝承がうちの味です」
大事にするのは、酢飯、仕事を施したネタ、煮切り醤油やツメ、山葵、この4つのバランスだ。
ゆえに店の酢飯に合わないと判断し、寿司として握れないウニやイクラは出さない。
浅茅 6050円(にぎり10カン・内容は仕入れで変わる)
握りは食事として満足できるようやや大きめ。マグロのヅケは柵取りして湯引きし、醤油が中まで入り過ぎないよう工夫するのも代々の知恵。
ちなみに切り身でなく柵のまま漬ける技は、この店が始めたといわれている。
実は昭和30年代に客が激減した時期もあった。流行りにおもねることなく、伝統を頑なに守っていたからだ。
「でも続けていると昔ながらの味に着目してくれる人もいてね。継続は力なり。たかが寿司屋、されど寿司屋でありたいと思っているんです」。
そう笑う親方の横には15歳からこの店で修業して34年になる6代目の姿が。
江戸前寿司の魂のバトンは、次代へ繋がれる。
5代目親方の内田正さんと6代目親方の山下大輔さん「古典的技法を守り続けることを大事にしています。」
[住所]東京都台東区浅草2-1-16
[電話]03-3844-0034
[営業時間]12時~14時半(14時LO)、17時~21時(20時LO)、日・祝12時~18時(17時LO)
[休日]月、第1・3日
[交通]地下鉄銀座線浅草駅7番出口などから徒歩3分
江戸の蕎麦文化と店の看板を守るため8代目の挑戦は続く『江戸蕎麦手打処 あさだ』@浅草橋 創業安政元(1854)年
看板を守ることはある意味、挑戦の連続かもしれない。
穀物商だった初代が江戸末期に創業した蕎麦屋の8代目、粕谷さんもまた、歴史を伝承しながら高みを目指すひとりである。
車海老天せいろ 2000円
機械打ちを取り入れた明治期は物珍しさで行列もできたというが、粕谷さんの代で再び手打ちに変えた。
「子供の頃は先代の味が一番と思っていましたが、次第に手打ちに負ける部分もあるとわかって。店を盛り返したい思いが強くなりました」。
打ち方も二八から十割に。和食の名店で修業し、蕎麦前も充実させた。全ては看板を守るためだ。
新蕎麦の時期に厳選した丸抜きを真空保存し、その日使う分だけ石臼で挽く。試行錯
誤で完成させた十割は豊かな風味としなやかなのど越しが実に心地いい。
古きを重んじ、挑戦を恐れない姿勢。これぞ江戸っ子の心意気である。
8代目の粕谷育功さん「季節感のある美味しい蕎麦前と酒も豊富に揃えています。」
[住所]東京都台東区浅草橋2-29-11
[電話]03-3851-5412
[営業時間]11時半~14時半(14時LO)、17時半~21時半(20時50分LO)、土の夜は~20時30分(19時50分LO)
[休日]日・祝、第1・3月
[交通]都営浅草線浅草橋駅A4出口から徒歩2分・JR総武線浅草橋駅東口から徒歩3分
滋養源として薬屋で出した猪肉が江戸庶民を虜にした『ももんじや』@両国 創業享保3(1718)年
肉食が禁じられていた江戸時代、庶民は「薬喰い」として山の“命”を大切にいただいていた。
「ももんじ」とは百獣のこと。創業時は薬屋だったこの店も、疲労回復に効果があるとされた猪肉が人気となって料理屋に転身。
猪鍋 4400円(1人前)
とはいえ当時は砂糖が貴重なため、今のように甘い味噌仕立てではなく、大鍋で炊いた味噌汁のようなものだったらしい。
大っぴらに猪とは言わず「山くじら」という隠語も生まれ、滋養源として親しまれた。
紅白の牡丹を思わせる姿から「ぼたん鍋」と称されるのは周知の通り。白い花弁のような脂身が、べっ甲色に透き通るほど煮込めば食べ頃となる。
脂を味わうのが醍醐味とあって、その上質さを求めて十代目が選ぶのは丹波産。
ぷりっとした歯応えを噛み締めれば、野生の滋味深い旨みが猪の如く体中を駆け回る。
[住所]東京都墨田区両国1-10-2
[電話]03-3631-5596
[営業時間]17時~21時(20時半LO)
[休日]日・祝※両国国技館で大相撲開催中の際は営業。詳細は店舗に要確認。
[交通]JR 総武線両国駅西口から徒歩5分
東京の魅力発信プロジェクトとは
雑誌『おとなの週末』ムック「ぶらっと東京日和」は令和6年度「東京の魅力発信プロジェクト」※に採択されています。
東京都は、国内外へ東京の都市としての魅力を発信し、「東京ブランド」の確立に向けた取り組みを推進しています。その一環である「東京の魅力発信プロジェクト」※に、雑誌『おとなの週末』ムック「ぶらっと東京日和」が採択されました。
「Tokyo Tokyo」とは
「Tokyo Tokyo」は、東京の魅力を国内外にPRするアイコンです。旅行地としての東京を強く印象づける「東京ブランド」の確立に向けた東京都の取組の中で誕生しました。
筆文字のTokyoとゴシック体のTokyoは、江戸から続く伝統と最先端の文化が共存する東京の特色を表現しています。
※2022年10月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
つづく…『東京日和』では、世界の観光スポット「築地」の魅力も紹介しています。