今や世界の「一風堂」が一店舗だった時代　なぜ、博多ラーメンの“代表”に選ばれたのか　「ラー博」伝説（6）

2025年3月2日 / コラム

技術を教えてほしいなら100万円持ってこい

しかし、バーは経営しているものの、ラーメンに関しては未経験。そこでお客さまにラーメン店の息子さんがいたので、河原さんは「親父を紹介してくれ、無給でいいから働かせてくれ！」と頼んだのです。いざそのラーメン店に“お願い”に行くと、「技術を教えてほしいなら100万円を持ってきなさい」と言われ、河原さんはびっくりしながらも、その100万円を払い、修業を開始しました。

夜はバーをやりながら1年間修業をし、時間が少しでもできたときは全国のラーメン店を食べ歩き、研究を重ねました。そして目標としていた33歳の年、1985年10月16日、「一風堂」を福岡市中央区の大名に創業します。ラーメン界に一陣の風を吹かせたい……だから「一風堂」店名の由来は「ラーメン界に一陣の風を吹かせたい！」という思いと、当時好きだったロックバンドの「一風堂」から名付けたとのことです。

バーをやりながらラーメン作りの修業をし、33歳で女性が気軽に入れる店「一風堂」を福岡・大名に開店

お店は10坪ほどの広さで、“女性客が気軽に入れる”という、今までにないおしゃれなお店だったこともあり、口コミで徐々にお客さまは増え、1年後には1日200人ものお客さまが訪れる繁盛店となりました。

しかし、順調な「一風堂」と別に、河原さんのビジネスとしては、ロードサイド型のラーメン店「爽風亭」や居酒屋などを展開したものの思うように利益が出ず、資金的にも厳しくなっていました。そんな折でした。私たちが、「一風堂」にラー博への誘致にうかがったのは……。

「こんな場所にお客さまが来るわけがない！」

最初は門前払いでした。それでも、私たちはめげずに何度も河原さんのもとを訪ね、そのうちに河原さんが、「じゃあ、（新横浜の）建設現場だけ見に行くよ」と、言ってくれたのです。

河原さんが新横浜ラーメン博物館の建設現場を訪れたのは1993年の6月。その日は小雨の降る夕方でした。あとから聞いたのですが、このときの河原さんは、ラー博の周辺を見て、「空き地だらけで、人がほとんど歩いておらず、こんな場所にお客さまが来るわけがない！すぐに断ろう」―と、瞬時に思ったそうです。私はそんなことも知らずに、河原さんがわざわざ来てくれたことにワクワクしていました。