シンプルに米酢を使ったシャリ、繊細な素材の味を引き立てる
「軍艦巻き」以外にも、『銀座久兵衛』の寿司にはこだわりがある。特に肝となるのはシャリだ。
「赤酢は酸味と香りが強すぎる為、ネタの繊細な味わいが引き立つよう、握り寿司のシャリには、米の甘みが感じられる米酢と塩のみを使用しています」
醤油は煮切り醤油を採用。火を沸騰寸前で切ることで醤油の塩気がまろやかになるため、魚介のうま味がより感じられるようになるそうだ。
二代目は「大阪寿司」もメニューに、江戸前にこだわらない柔軟な思考
1965(昭和40)年に二代目の洋介さんに店を引き継いでからは、神戸での修業経験を生かし「大阪寿司」の要素も取り入れた。鯖の押し寿司「バッテラ」や、複数の具材を海苔で巻いた「太巻き」、酢飯に玉子と椎茸、車海老やアワビ、野菜をのせた「ばらちらし」がメニューに加わった。
「バッテラや太巻きはお土産用が主となりますが、普通に作ると味が2、3割に落ちてしまうんです。ですから時間がたっても味が落ちず、硬くなりにくいよう塩の2倍砂糖を入れ、シャリを作ります。そうすることで1日たっても米が硬くなりにくく、おいしくいただくことができるんです」
「軍艦巻き」に続き、次の日もおいしく食べられる「バッテラ」や「太巻き」、「ばらちらし」もことごとくヒットした『銀座久兵衛』。伝統を重んじながらも、新しい試みに挑戦し、江戸前寿司の概念を次々とアップデートしていった同店のこれからにますます目が離せない。
■『銀座久兵衛』
[住所]東京都中央区銀座8-7-6
[電話]03-3571-6523
[営業時間]11時30分~14時、17時~22時
[休日]日曜日・月曜日・盆・年末年始など
[交通]地下鉄銀座線「新橋駅」3番出口から徒歩約5分
http://www.kyubey.jp/
文・写真/中村友美
フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験し、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを始め、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。休日は毎週末サウナと温泉で1週間の疲れを癒している。