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酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?今回は長崎県平戸市にある森酒造場を訪ねた。杜氏の森雄太郎さんは、経営の苦しい家業にあえて挑んだ5代目。郷土の歴史、味わいを活かした酒を、魚ではなく肉で楽しむ。

2017年、『森酒造場』の杜氏に就任

【森雄太郎氏】

森雄太郎氏

1990年、長崎県生まれ。広島大学で発酵工学を学び、大学院まで酒類総合研究所に所属。最先端の酒造りを研究した。「浦霞」の佐浦での修業を経て、2017年に家業の森酒造場に入る。以来、杜氏として蔵を変革してきた。

ビールの後は、日本酒をだらだらと

「晩酌は、運転をする用事がなければ毎日必ず。はじめにビールをひと缶、後はひたすら日本酒を酌む。飲み始めたら、だらだらと長いですね」と杜氏は言った。

「飛鸞(ひらん)」や「フィランド」を醸す森酒造場の杜氏・森雄太郎さんだ。

同蔵は長崎県西部、九州本土と橋でつながる平戸島にある。平戸の地名は飛鸞島と呼ばれていたことに由来する、平戸は日本で初めて西洋貿易が行われた地。ポルトガルやオランダ、イギリス、中国などの諸外国には“フィランド”と呼ばれていたという。

発酵工学を専攻した大学院を修了し、宮城県の蔵で3年間修業した森さんは、廃業寸前にまで追い込まれた家業に入った。当地で酒造りをする意味を突き詰める。

「機材と技術を駆使して流行りの酒を造ろうと思えば造れる。でも、おいしさに背景がないと、飲む価値があると選んではもらえない。仕込み水の湧水と地元の米の持ち味を大切にして、平戸の風土を表現したい」と思い至った。

平戸の山田錦と蔵付き酵母で醸す「飛鸞Classic」や、平戸の棚田米を使った白ワインのような純米原酒「フィランド」などが国内外で高く評価され、「旨い酒が平戸にある」と生産量は鰻登りに伸びた。長崎の食文化との相性を重視して造った「飛鸞Classic」は、森さんお気に入りの晩酌酒だ。

「長崎には日本、中国、オランダの文化が融合した独特の和華蘭文化があります。食べ物には洋食と中華の影響が濃い。鰹節や昆布の繊細なダシに合うような日本酒は、長崎の料理には物足りないこともしばしば。もっと肉のコクにも負けず、脂も切ってほしい。そのために酸を大事に、味わいを分厚く、キレよく仕上げました」

その晩、森さんは身重ながら女将業に奮闘する友梨さんを労い、長女の佳鈴ちゃんも連れ立って、お気に入りの焼肉店へ。

和牛にも合う日本酒を!

平戸牛のカルビやハラミを頬張り、「飛鸞Classic」をぐいっとやる。年に4日間の家族旅行以外に無休で働き詰めの森さんが、安らぎ、英気を養う一家団らんの時間だ。

県外流通がほぼなく幻の和牛と呼ばれる平戸牛。中でも店主が厳選した極上品を焼肉で楽しめる。ミネラル豊富な牧草で育ち、甘み豊かな肉と「飛鸞」との相性が見事

取材の2週間後、元気な長男が誕生した。気鋭の杜氏の酒造りにかける情熱は、さらに勢いを増す。

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1895年創業、主力商品は「飛鸞(ひらん)」
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『おとなの週末』編集部
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