酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?異業種から酒の世界に飛び込んだ蔵人は、穏やかな味わいと地元の好物、そして酒が生み出すリズムに乗って、楽しい時間を過ごす。今回は香川県観音寺市の『川鶴酒造』です。
2021年、『川鶴酒造』の杜氏に就任
【羽豆薫氏】
1981年、埼玉県生まれ。音楽制作者として20代をNYやリオデジャネイロなどで過ごす。母方の実家である佐渡島の北雪酒造、当時岐阜にあった三千櫻酒造で酒造りに取り組む。2019年、香川県観音寺市の川鶴酒造へ移籍。2021年、杜氏に就任。
飲むのはメリハリつけて週3日
「酒質に対する感受性を研ぎ澄ますために毎日は飲みません。晩酌は週3日ほど。だらだら飲めるタイプの日本酒とワインを酌む」と杜氏は言った。音楽畑から蔵人へ転身し、川鶴酒造で酒造りに取り組む杜氏・羽豆薫さんだ。
「晩酌には、極端に華やかな香りは要りませんね。穏やかな風味がカラダにスッと馴染んで、ついもうひと口、もうひと口と飲みたくなるような食中酒が好きです」
今宵は香川の酒米・オオセト100%の「川鶴純米オオセト」と、“大人のカルピス”とも称されるアルコール度数6%の「讃岐くらうでぃ」を選んだ。
肴は羽豆さんの好物が大集結だ。瀬戸内海の珍味として知られるネブト(テンジクダイ)という魚の唐揚げ、地元・観音寺名産のイチジク、隣の三豊市の伝統野菜・三豊なすの辛子漬け、隣県の愛媛からは枝豆、高知からは豚の血を混ぜて作るソーセージ・ブーダンノワール……四国の旨いもの初秋コレクションといったラインナップだ。
「オオセトの純米はキレと余韻のほのかな甘みを意識して造っています。パンチのある辛子漬けにも、サラリと甘いイチジクにも合います。はじめは冷やでやって、マグカップとカップウォーマーで適当に燗をつけて飲むことも。それから、いつも日本酒と同時にワインも飲むので、チーズやソーセージなんかもよく食べます。ま、何でもアリですね(笑)」
乳酸の風味が心地いい「讃岐くらうでぃ」は、鶏モモ肉を丸ごと1本スパイシーに焼き上げた香川名物・骨付鳥に合う酒として開発したもの。ラッシーのごとく、カレーのような強い味の料理との相性が抜群だ。南インドの定食であるミールスのように、個性派の肴が揃った今晩のひと皿でゴクゴクやるのもたまらない。
羽豆さんは夜中にひとりで麹やもろみを管理することも多く、音楽制作と酒造りの類似点を指摘する。
「没頭すると、時間がゆったり流れるような不思議な感覚に陥ります。タンクを覗いて、いい面つら(酵母の泡の様子)してるな、リズムが出てきたなとか、自分も乗って楽しくなってくる。はたから見たら相当不気味でしょうね(笑)」