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古今東西、美味しいグルメを追い続けてきた、東の食のジャーナリストのマッキー牧元(まきもと)さんと、西のグルメ王の門上武司(かどかみ・たけし)さんが互いに「オススメの一皿」を持ち寄って紹介します。食の達人たちが織りなす“おいしい往復書簡”をどうぞお楽しみください。今回のお題は、年越しそばにもぴったりな「花巻蕎麦」です。

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香りで一献、ツユで一献…江戸っ子に感謝!

蕎麦を語る上で常套句の「粋」という言葉が、これほどにハマる存在って他にあるだろうか。〈花巻蕎麦〉を前にすると、毎回そう感じ入ってしまうわけで、いやぁこれを思いついた江戸っ子には本当に感謝しかありませんな。まずは香りで一献、ツユで一献、溶いたわさびでもう一献と、どんだけ飲ませんだい!とひとり突っ込みながら気づけば最後のツユ一滴までペロリな一杯。気分は上々な温蕎麦なのです。

ふたを開けた途端広がる磯の香りに心奪われる一杯『蕎麦 カネイ』@東京・西荻窪

【東の花巻蕎麦】

「江戸を代表する種物蕎麦ではありますが、実は今やもう、この花巻の“ふた”を扱う道具店は、合羽橋にもほとんどないと聞きます。八切りの有明産海苔が最後に散り散りとなるさまは、実に粋なものです」(牧)

花巻1350円

『蕎麦 カネイ』花巻1350円

門上さん、花巻は江戸を代表する、種(たね)物です。磯の花(海苔)を散らす(巻く)ことから名付けられた、江戸っ子らしい、粋な名前ですね。

よき花巻そばの第一は、ふたつきで提供されることにあります。分厚い塗りのふたを少し開けて香りを嗅ぐ。次に一旦閉めてからまた開ける。すると蕎麦の上には、黒々とした海苔が輝いている。海苔をのせただけなのに、何故にこんなにも神々しいのでしょうか。

ひと口目は海苔を丼の縁に寄せて、ツユをひとすすりします。こっくりと甘辛いこの店の甘汁に、ほんのりと海苔の旨みが加わる。次に海苔を箸でちぎり、蕎麦と一緒にたぐると、海苔の旨みの後から蕎麦が来る。この店の蕎麦は、温められても弱りません。もちっとなった蕎麦はやさしい甘みがあり、淡い草の香りが漂います。次はわさび。千切った海苔にちょんとのせ、蕎麦を掴んでたぐる。するとツユ、海苔、わさび、蕎麦の順にきて、口の中で響き合う。

『蕎麦 カネイ』花巻蕎麦にちょんとのせるわさび

この美学を産むには、甘辛さが凛としたツユ、蕎麦のたくましさ、存在感はあるが溶け込む上質な海苔が欠かせません。つまり私の花巻の理想条件が、見事に整っているのです。

さて蕎麦を食べ終えたら、そこに蕎麦湯を入れ、ツユと溶け込んだ海苔の旨さと蕎麦湯が渾然一体となった、丸く深い味わいをしみじみと楽しみます。門上さん、江戸にいらして、そんな花巻を、楽しみませんか?

[店名]『蕎麦 カネイ』
[住所]東京都杉並区西荻南3-16-5
[電話]非公開
[営業時間]11時半~20時(19時半LO)
[休日]水、第2・4火
[交通]JR中央線ほか西荻窪駅南口から徒歩2分

マッキー牧元

マッキー牧元

自腹タベアルキストであり、コラムニスト。『味の手帖』主幹。また、東京・虎ノ門ヒルズにある飲食店街〈虎ノ門横丁〉のプロデュースを務めるなど、ますます多彩に活躍。

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凛とした佇まいのなかにもじんわり広がる温かみ『なにわ 翁』@大阪市
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